それから三日が過ぎた。せっかく北陸まできたというのに、俺はこの三日間ほとんど何もせずにきた。一日目はこの辺りをただ歩き回っただけ。二日目はなにをしようか迷った挙げ句、暇だからドライブしようということで車で駅前まで行ったが、行き先も決めていなかった上に田舎だから駅前にはパチンコ屋とコンビニぐらいしかなく、結局ただ酒とつまみだけ買って帰ってきた。三日間は疲れていたので何もせず、寝ていただけだった。
そうして迎えた四日目。…といっても、時刻はすでに夕方の五時を過ぎていた。時間が過ぎるのは早い。今日も結局このまま何もせず、飯だけ食って終わるのか。そもそも俺はここに、自分探しの旅で来たはずだったんだが…自分探しどころかまだ何も見つかっていない。ただ飯を食って温泉入っただけだ。少なくとも何か見つけなければ、帰るに帰れない。数ある旅行地の中からわざわざここを選んで来たのだから、何かあるはずなんだ…何か…
そのとき、コンコンと部屋の戸が叩かれる。返事をすると、またいつものようにメグさんが夕食を持って現れた。
「失礼します」
そう言って、手際よく配膳を済ませるメグさん。今日は名古屋名物えびふりゃーと伊勢湾で捕れた伊勢海老、伊賀牛のサイコロステーキといったラインナップだった。
「お注ぎいたします」
メグさんがコップにビールを注いでくれる。俺は一気にそれを飲み干すと、さっそく食事に取りかかった。
「ときに櫻井様」
「あ、はい」
サイコロステーキを頬張っているとき、メグさんが不意に言った。
「今日はもうご予定などは何もありませんか?」
俺は首をかしげた。不思議なことを聞くものだ。まだ午後6時だが、この後別にすることはない。あるとしたら、またブログを覗いて、キ喪蛾やら岐阜の鯖やらのくだらないコメントに適当な返信をつけて、風呂に入るぐらいのもの。することのうちにも入らない。
「この後は特にありません」
「いえね、せっかくこんな遠いところまで来ていただいたのに、退屈させてはいけないと思いまして。よろしければ私どもの方で、何かレクリエーションをご用意いたしますが、どうされますか?」
「レクリエーション?」
「といっても、トランプ、花札、麻雀などしかありませんが、そんなものでよろしければ」
麻雀…その言葉に俺の第六感が反応する。
「麻雀ができるんですか?」
「ええ、別室に卓を用意してございます」
その言葉を聞いて俺はワクワクしてくる。俺もこれで、栃木県ナンバーワン雀士と呼ばれた男だ。麻雀ができると聞いて胸が踊らないわけがない。今すぐにでもやりたいぐらいだ。いや、けど待てよ…
「メンツはいるんですか?他の宿泊客とか…」
「ひとまず、私と娘の琥珀がおります。三人対局ならすぐにでもご用意できます。四人対局がお望みでしたら、他の従業員をお呼びしますが…」
サンマか…なるほど。そういえば昔、サンマ好きな先輩がいて、たまに対局したっけ。懐かしいな。よし、それなら久々にやるか。
「三人でけっこうです」
「かしこまりました。細かいルールなどは後でご説明いたします」
「わかりました」
こうして、俺はこの片田舎で久しぶりの麻雀に興じることとなった。