廃社 | 文芸部

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「…うっ…ううう…」

 

 

 

自分のうめき声で目を覚ますと、そこには見知らぬ天井が広がっていた。見慣れた鉄筋コンクリートの天井ではなく、木造で梁がめぐらしてある古い造りだった。ここはどこだ…?

 

 

 

 

「…はっ!」

 

 

 

 

俺は何かに弾かれたように跳ね起きる。気が付くと俺は畳の上に座布団を枕にして寝かされていたようだった。

 

 

 

 

「お目覚めですか、櫻井さん」

 

 

 

 

見ると、俺のすぐ目の前、机を挟んで正面に吉川さんが座っていた。そして何食わぬ顔で俺を見ていた。ど、どうなってるんだ…?

 

 

 

 

「よ、吉川さん、ここは…」

 

 

 

 

改めて周りを見渡す。そこは、一般的な家庭の和室を三倍ぐらいの広さにした部屋だった。中央に机が置いてあって、部屋の角に座布団が積まれている以外は全く何もない、ただっ広い殺風景の極みのような部屋。そして、全く見覚えのない場所だった。

 

 

 

 

「驚かれるのも無理はありませんね。櫻井さん、酔って寝てしまわれたので、とりあえずここに運んだんです。まぁ、まずはお水をどうぞ」

 

 

そう言って彼女は水のペットボトルを俺に渡す。

 

 

「…そうか、俺、さつき台公園で…」

 

 

 

ようやく記憶が戻ってきつつあった。俺はあの公園で、彼女と花見をしていた。そこで彼女の用意してくれた弁当を食べて…酒をたらふく飲んだ。ビール一本ぐらいにしておけばよかったのを、男らしい飲みっぷりを見せたくてつい二本、三本と飲み続け、気が付けば四本目を口につけたところで記憶をなくしてしまった。覚えていないが、たぶんその場でぶっ倒れたんだと思う。恰好の悪いところを見られてしまった…いい歳をして酒を飲んでぶっ倒れるなんて…それは俺が悪い。だが、ここは一体どこなんだ…?

 

 

 

 

「ここはとっくに打ち捨てられた廃村です。それで、今いる場所はその村にある神社です。そこの集会所として使われていた建物が、この部屋です」

 

 

 

吉川さんはすました顔でよくわからないことを言った。打ち捨てられた廃村?神社、だと?俺はますますわけがわからなくなる。整理すると、俺は公園で彼女と花見をしていて、酔って意識を失って、それで…?この廃村だか何だかよくわからないところに連れてこられ、そこにある神社の集会所に担ぎ込まれ、今の今までそこで寝ていたというのか…?

 

 

 

再び周囲を見渡してみる。確かに彼女の言うことはわからない。正直言って奇妙奇天烈だ。だが、落ち着いて考えてみると紛れもない事実には違いなかった。。俺はついさっきまでそこの畳の上で寝ていたわけだし…ふと窓の外を見ると、崩れた鳥居としめ縄が見える。そして周囲には誰もいる気配がない。静かで、車の走る音一つしなかった。ということは、彼女はなに一つ嘘を言っていない。全部現実に起こったことなのだ。しかし、なぜ彼女は俺をこんなところに連れてきたんだ…?

 

 

 

 

「あの、よくわからないんですが、どうして俺はこんなところにいるんでしょう?どういう理由でここに…」

 

 

 

「そうですね」

 

 

 

彼女は不敵な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「それを話す前に、まず言っておかなければならないことがあるので順番に説明しますね」

 

 

 

 

俺はかすかに恐怖を覚える。彼女が言う、とっくに打ち捨てられた廃村、人が住まなくなった村。そして、古びて崩れかけた神社。こんな誰も寄り付かない、幽霊でもいそうな廃屋にいるこの状況。そんな中で何が面白いのか、不敵に笑う彼女…どう見てもヤバい状況であることが鈍い俺でもわかる。次第に俺は恐怖に支配されつつあった。