「双頭の悪魔」/有栖川有栖/東京創元社、創元推理文庫。
夏の事件(「孤島パズル」)の後。
秋が深まり、冬の声が聞こえる季節になっても彼女は京都に帰って来なかった。
心配をするEMCの面々は彼女の両親の要請を受け、彼女――マリアに会いに四国へ。
山あいの夏森村。
そして双頭の竜に例えられた川を挟んだ奥には、新しく作られた芸術家の住む閉鎖集落・木更村。
そこにマリアは居るという。
得体の知れない木更村の住人にマリアとの面会を断られ、更に電話すらも切られて焦るアリス達4人。
そのころ村では、画家、彫刻家、歌手、舞踏家、調香師、詩人(※1)、音楽家といった一同がそれぞれに行く先を案じ、また新しい一歩を踏み出そうとしていた。
さらに強まる雨。
断絶された2つの村で、事件が起きる。
実は文庫で700ページと1.1京極夏彦(※2)ぐらいの大作だが、この枚数は必要。なにしろ事件のディテールが細かい。しかし無駄はない。今作もロジックで解けるのだ。
また、木更村はマリア、夏森村はアリスの語りで構成されているのも読者を飽きさせないので、読みはじめたら速いだろう。
3回に渡り挟まれる読者への挑戦が魅力的であるが、とかくパズルのみに流れがちに思われていた本格畑で、推理小説であるこの学生シリーズが大好きだ。
さて、今回も探偵は事件を解いてしまった。
道は繋がったのだ。
※1 火村英生のモデルになったと作者が明言している、志度晶というキャラクター。
ちなみに、火村に凄惨な過去があったという推測をよく見掛けるが作中・作者の言葉で明示されたことはない。
志度の過去と混同されているものと思われる。
※2 650ページを1京極夏彦とした本の単位。