エジプトに着いてからの行動を書こうと思う。


カイロ空港の検問をくぐると、すぐにタクシーの勧誘が押し寄せる。なんとか逃げ切ってスマホの格安SIMを契約した後、国際線乗り場から国内線乗り場まで歩き、空港内循環バスを待った。そして市街地行きのバス乗り場へ移動した。

エジプトのバスは本当に安い。50円しないことも多い。現金払いが原則で小銭は必須だ。


その日はホテルへ移動するだけで良かったので、バス移動に挑戦してみた。バスはアラビア数字で何号車なのか書かれている。ガイドブック片手に中心部行きのバスを何とか探し出して、運転手に「タフリール(広場)!」と聞いた。正式なアラビア語の発音は分からない。でも頷いてくれたので間違いないと思い乗り込んだ。



バスはドアを開けっぱなしのままで走っていく。道中でガンガン人が乗ってくるし、ドンドン飛び降りる。ある程度道を行くとおじさんが料金を回収しに回ってくる。


カイロの街は何百台という車がクラクションを鳴らし合って騒然としている。車線はロクに引かれていないし、渋滞している車と車の間を歩行者が平気な顔で縫うように横断する。まさにカオスだった。無賃乗車で追い出される者、バスに乗り込んで物を売り始める者など、バスの中もカオスだった。


「先進国」だと自称する国々ではあり得ないほどの無秩序と混乱と騒乱ぶりである。


この光景を目の当たりにして私はすごくホッとしたのを覚えている。

私はぐうたらな人間で、面倒くさがりだ。

それでも日本では必死に毎朝起きて、必死に満員電車に自分を放り込んで生きている。職場に社会人のふりをしてしがみついている。一度振り落とされたらもう戻れないという恐怖と戦いながら。


でもカイロでは、人々がやりたいようにやって上手に回っている。人生は思い詰めなくてもなんとかなる、そんな気になった。

本当は日本人的な生き方が息苦しくて仕方ないのだと、ここに来なければ気付けなかっただろう。


今日中に終わらせるべき仕事、来週の予定、月末までにコレを、半年後までにアレを、30才になるまでにどうなっていたい…そんな責任とか将来の不安は、このカオスの前では邪魔なだけだった。


目の前の車に轢かれないように道路を渡る。しつこい物売りを振り切る。クラクションを浴びせながら、目の前の車と車のすき間に自分の車を押し込んで無理やり合流する。


誰も彼も目の前のカオスをかき分けて生きるエネルギーに満ち溢れている。

自分の時計が今この時に巻き戻る感じがして、それがすごい嬉しかったのを覚えている。



バスを降りたら夕日に染まるカイロタワーを横目に、行き交う人々に過剰に警戒しながら弾丸のように一直線にホテルへと急いだ。