相棒16第3話『銀婚式』(11月1日放映)について感想を送ってくださったみなさま、たくさんのお便りありがとうございました。中には、亘さんがチラリと目をやったローヒールの意味を瞬時に見破った鋭い見巧者の方も何人かいらして、いろいろな感想を驚いたり唸ったりしながら楽しく読ませていただきました。
また、小説では『犯罪者』文庫が7刷になりました。現在、Amazonではまたしても売り切れで11月14日入荷予定となっていますが、重版分で補充され、もう少し早く入荷されると思います。書店に並んでいますので、未読の方はぜひお手に取ってみてください。
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久しぶりに秋の俳句から。
今日こんな秋風見たの その切絵 平井照敏
句の前に「高村智恵子」と、ひと言だけ詞書が置かれている。詩人・高村光太郎の妻であった智恵子は、後年、統合失調症に苦しんだ。「狂った智恵子は口をきかない ただ尾長や千鳥と合図する」と光太郎は書いている。そんな智恵子が、生涯の最後に病床で創作したのが夥しい数の紙絵だった。平井さんの句は、そんな紙絵のひとつを見て詠まれたものだろう。
「今日こんな秋風見たの」と智恵子が声にして告げた時から、彼女の胸のうちにある昂ぶりも驚きも喜びも、誰にも届かなくなる。風の冷たさを肌に感じ、揺れる木々や川面を目にすることはあっても、智恵子が確かに「見た」風を、決して誰も同じように「見る」ことはできないからだ。「こんな秋風」と彼女が指した、その「こんな」の色や形を誰も「見る」ことはない。それでも、その秋風を分かち合いたいと願った智恵子は思わず声に出し、しかし、やはりそれは誰かに本当に届くことはなく、届かなかった思いと、思いが届かなかったことの悲しみとが紙絵となって残る。「切絵」の一語の余韻には、智恵子の癒えない悲しみと孤独の深さがあり、それが胸を衝く。