めずらしく風邪をひく。
日が暮れて目を覚まし、白桃の缶詰を食べる。
子供の頃、風邪をひくたびに食べさせてもらった白桃の缶詰。
蜜に濡れたひんやりとした果肉は、ひりひりと乾いた体の内側を、今もどんな薬よりもやさしくなだめてくれるような気がする。
蜜といえば思い出す一首。
蜜吸ひては 花のうへにて 踏み替ふる 蝶の脚ほそし わがまなかひに
横山未来子
日が暮れて目を覚まし、白桃の缶詰を食べる。
子供の頃、風邪をひくたびに食べさせてもらった白桃の缶詰。
蜜に濡れたひんやりとした果肉は、ひりひりと乾いた体の内側を、今もどんな薬よりもやさしくなだめてくれるような気がする。
蜜といえば思い出す一首。
蜜吸ひては 花のうへにて 踏み替ふる 蝶の脚ほそし わがまなかひに
横山未来子
こころを直にあらわさず、対象を見つめることばだけで詠まれた静謐な歌だ。けれども、「踏み替ふる蝶の脚ほそし」という精緻な表現には、ありふれた営みのうちに生の哀しみと厳粛さを見つめる作者のまなざしがあり、それが一首に鋭い緊張感と美しさを与えている。
日付変わって三月十一日午前一時。東京の天候は晴れ。
あの日から三年がたつ。
窓を開けると、街には、空を薄墨色に変えるほどの人工の光がひしめいている。
あの日から三年がたつ。
窓を開けると、街には、空を薄墨色に変えるほどの人工の光がひしめいている。