明け方、夜の闇が薄くなった頃合に、散歩に出た。
まだ明るい陽の射し始める前の影のない時間。
しんと静かな道のあちこちに春の花が咲いていた。
桃色の椿は冬の名残のようにまだたくさんの花を残していた
傍らにはあざやかな白い椿の木も。
春の草花で「香り」の際立つのはやはり沈丁花。夜中に自転車を飛ばしていて不意に出会う沈丁花の匂いは、なによりハッと春の訪れを実感させる。
その沈丁花ももう終わりの気配。今年は季節の移り変わりがあわただしい。
桜もすでに花をつけ始めていた。下の写真は、蕾の開き始めた枝垂桜。
もうひとつ、ひと足早い花を。
足元にあまりにひそやかに咲いているので、急いでいる時なら見落としてしまいそうだ。スズランは「純粋・純潔」を花言葉とする可憐な花だが、実はこの花には強い毒性があるらしい。ウィキペディアによると活けた水を誤飲して亡くなった例もあるということなので凄まじいかぎりだ。
見上げなければ全容を見ることのできない花の木というのは、それだけで特別な力を感じさせる。花を仰ぐという行為がそんな気分にさせるのかもしれない。
花のことばかり書いたけれど、円地文子さんの小説に『花食い姥』という短編がある。花を食う老女が登場するまるで夢幻能のような艶めかしくも恐ろしいお話。ざわざわと風の立ち始める妖しい春の夕暮れに、お勧めの一冊。講談社文芸文庫から。
そしてスズランの『毒』にちなんでもう一冊。『緋文字』で有名なナサニエル・ホーソーンの『ラパチーニの娘』。こちらは怪奇小説に分類されている短編で、美しい毒草と娘を巡る残酷な恋のお話。興味のある方は是非。