チャイコフスキー | 脚本家/小説家・太田愛のブログ

先日の夜、仕事に煮詰まり、ニュースでも見て仮眠しようとテレビをつけたところ、ウィーン・フィルがチャイコフスキーの5番を演奏していた。指揮はリッカルド・ムーティ。溌剌とした演奏に、しばらく聴き入る。思い直してテレビを消し、横になってみたものの、まだ何となくチャイコフスキーが耳に残っている。少しだけと思って、セル指揮クリーブランド管のチャイコフスキーの5番のCDを取り出し、聴き始めた。音楽が凄いのは、聴いているあいだ空っぽになれるところだ。頭の中から何かを閉め出したい時には本当にそうさせてくれる。


CD

チャイコフスキーの5番は初めて聴いたのがチェリビダッケの指揮。強烈な印象で耳に焼きついている。(チェリビダッケの「テイ!テイ!」という掛け声も音楽の一部として記憶している)。セルの演奏は情感豊かだがシャープな輪郭でぐいぐい迫る感じで、随分と印象がちがう。以前、セル好きの友人が、セル/クリーブランド管のコンビの演奏があまりにアンサンブルの縦の線が揃っていることを評して、「オーケストラのメンバーが家族を人質に捕られているんじゃないかと思うほどだ」と言っていたが、確かに凄まじい。亡くなった指揮者の岩城宏之さんも理想のオーケストラはセルの時代のクリーブランド管とおっしゃっていた。


演奏者が変わると、同じ曲でもまったく違う印象になる。まるで同じシナリオを別のキャスト、別の監督・スタッフで撮った映画のように様変わりする。そんなことを考えながら、続けてムーティ/フランス国立管のチャイコフスキーの6番、再び5番と、とうとう明け方までCDを聴いてしまい、まずいことに仮眠せずに充実した一晩を過ごしてしまった。