『山の巨人たち』を観に行く。
戯曲は二十世紀イタリアの劇作家ピランデルロの絶筆で、未完の作品。
物語の舞台は山上にある『不運』と呼ばれる謎めいた屋敷。
そこには魔術師と呼ばれる男・コトローネを中心に、小人のクアケーオ、百人の天使を見た老婆・スグリーチャ、狂女・マリーアなどなど、まるでフェリーニの映画のような妖しげな人々が棲んでいる。
ある嵐の夜、その屋敷をいわくありげな旅の一座が訪れるところから物語は始まる。
『夜明けは未来に向かう時間。日暮れは過去に向かう時間』
『夜が来た。夜は我々の時間だ』
こんな台詞(記憶なので不正確)が飛び交う中、虚実入り乱れた恐ろしくも美しいお話が立ち上がる。
魔術師・コトローネを平幹二郎さん、一座の主演女優で元・伯爵夫人のイルセを麻美れいさんが演じる。とにかくお二人の声と台詞が圧巻。それを田根楽子さん、大鷹明良さん、綾田俊樹さん、久保酎吉さんら、芝居好きにはこたえられない芸達者な俳優さんたちが見事に盛り立てる。
演出はフランスのジョルジュ・ラヴォーダン。
ラヴォーダンは照明も手がけていて、巨大な太鼓橋をど真ん中に据えた大胆な装置ひとつで、闇の深遠から悪夢の夜の哄笑までを陰影のある光で演出する。
天井の高いホリゾントを背後に人々を配した群衆図は、かつて観たテオ・アンゲロプロス監督の『旅芸人の記録』を思い出させた。
久しぶりに堂々たる台詞劇という感じの2時間の舞台だった。
戯曲の方を読んでみたいと熱望するも、絶版となっていて無念。