ミス・マープル | 脚本家/小説家・太田愛のブログ

秋の夜長と言えばミステリー。

この季節になると、なぜか古典モノのミステリーが観たくなる。

古典といえば、ミス・マープル。

ミス・マープルはご存知のように何人もの女優さんが演じていて、女優さん別に観るのも楽しみのひとつだ。


ヘレン・ヘイズのミス・マープルは、笑顔を絶やさない可愛いおばあさんで、庭の迷路の中で迷ってしまうというお茶目な演出がぴったりだった。この方は五歳で舞台を踏んだブロードウェイの大女優で老いても抜群の台詞回し。マープルシリーズの『魔術の殺人』では、あのベティ・デイビスと共演している。ヘレン・ヘイズは、ミス・マープル以外にも「スヌープ姉妹」というコミカルな老姉妹探偵シリーズに主演しているのだが、実はこの「スヌープ姉妹」は隠れた傑作シリーズ! 再放送してくれないものかと念願している。


アンジェラ・ランズベリーはむしろ「ジェシカおばさんの事件簿」で印象に残っている方も多いかと思う。編み物をするにはやや大柄な感じで、なんとなく率先して事件を解決してしまうちょっとアメリカ風のマープル。私の中でもやはり、マープルというより、ジェシカおばさんのイメージだ。


ジョーン・ヒクソンは故・山岡久乃さんが吹き替えをされていて、恐らく誰が見ても一番、原作のイメージに近いマープルではないかと思う。それもそのはず、ジョーン・ヒクソンはアガサ・クリスティその人から、年を取ったらミス・マープルを演じて欲しいと請われていた女優さんだ。

まずほとんど笑顔をみせない。灰色の厳しい鳥のような目をしたマープルで、恐ろしく賢そうだ。見たもの全部を覚えている、といわれても、そうだろう、と思わせる存在感がある。生粋の英国人なので原語で観ると、母音の深い英国英語でいっそう英国ミステリー感を味わえたりする。

このひとのシリーズの中では『スリーピング・マーダー』と『魔術の殺人』が印象的だった。特に、『魔術の殺人』は古い友人である三人の老嬢が、少女時代の自分たちが映ったフィルムを観る幕切れが切なかった。


ジェラルディン・マクイーワンは現在、ミステリ・チャンネルで放映中のマープルシリーズ。初期の吹き替えを岸田今日子さん、その後を草笛光子さんがなさっている。愛らしくて怜悧な、ヘレン・ヘイズとジョーン・ヒクソンのちょうど中間といったイメージ。このひとも英国の女優さんだ。四人のミス・マープルの中では一番ファッショナブルなマープルで、ヘチマえりの可愛らしいワンピースや桃色のカーディガンで登場する。老いてなおとても美しい女優さんで、マープルシリーズでは珍しくマープルの若かりし頃の恋物語が断片的に語られたりする。<一生に一度の恋を知っている老嬢>といった設定だ。


それぞれに趣が違うけれど、どのマープルも魅力的で何度も観てしまう。そして、マープルシリーズを観たあとは、必ず紅茶とマフィンが食べたくなる。