怪奇大作戦 №1 『京都買います』のこと① ソルの音楽 | 脚本家/小説家・太田愛のブログ


『怪奇大作戦』は大好きなシリーズだが、中でも第25話『京都買います』は、何度も見返した最も好きな作品のひとつだ。いわずと知れた実相寺監督の傑作で、シリーズを代表する名作のひとつ。


冬の京都で国宝級の仏像が次々に消失するという事件が起きる。捜査に来たSRIの牧は、仏像を愛しているという不思議な女性に出会い、心ひかれる。だが、彼女の行動を追ううちに、牧は美弥子が一連の犯罪に関わっていることを知り、心ならずも彼女を裏切って犯罪を暴くのだが……。というお話。


実相寺監督のあざやかな演出はもちろん、佐々木守さんのシナリオ、稲垣涌三さんのキャメラ、そして牧を演じる岸田森さんの演技。本当にどこをとっても見事だ。


『京都買います』で、とても印象的な場面のひとつが、愛する女性を裏切ったSRIの牧が冬の京都の街を彷徨する一連のシーンだ。


雪のちらちら舞う京都。誰もいない寺々。実相寺監督が「ワンカット、ワンロケーションという贅沢」とおっしゃっていたが、知恩院、銀閣寺、化野念仏寺、常寂光寺……女が愛した古都を、女の心を確かめるように歩き続ける牧の姿を、一言のセリフもなく、キャメラがただひたすら追う。息をのむような素晴らしい場面だ。


ところで、この一連の場面に流れているのが、劇中、通奏低音のように流れていたソルのギター音楽だ。


深刻で滑稽で苦々しいショスタコーヴィチの音楽が好きだった実相寺監督は、この『京都買います』という作品に、モーツァルトの主題をモチーフにした、平明で明るいソルの音楽を選んだ。


この選曲は、どことなく小津安二郎監督の映画の中で流れる音楽を思い出させる。小津さんの映画で流れる音楽も、決して激情的にならない。物語の内側で、どれほど人物が葛藤や苦悩を抱えても、音楽はそれにぴったり寄り添うようにシンクロすることはない。流れるのは、牧歌的といってよいほど平明な音楽ばかりだ。


たとえば、黒澤明監督の『七人と侍』では、誰もが忘れないあのトランペットのター、タ、タ、ター、タ、タ、ターンタタタンというモチーフが、千秋実さん扮する平八が死んだ場面で、誇らかに哀しく鳴り響く。音楽は人物とともに泣いている。


だが、『京都買います』のソルの音楽は、決して泣かない。牧の内面にある葛藤や苦悩を突き放すわけでもなく、寄り添うわけでもなく……。


今、考えてみて、この音楽のありようが、実相寺監督が登場人物を見つめていた場所なのだな、と思う。人の弱さや、哀しみをよく知り、それを少し離れた場所から責めることも、わらうこともなく見つめている。


京都にある仏像の多くは、実相寺監督が演出されたウルトラマンやセブンと同様、アルカイックスマイルと呼ばれる慈愛にあふれた静かな微笑をたたえている。そう考えてみると、このソルの音楽がいよいよ『京都買います』にこそふさわしく思えてくる。