第二十七どんとこい 「連環記」、「七つの夜」 | ナメル読書

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時にナメたり、時にナメなかったりする、勝手気ままな読書感想文。

「連環記 その他一篇」(幸田露伴、岩波文庫)

「七つの夜」(J.L.ボルヘス、野谷文昭訳、岩波文庫)


こんにちは てらこやです


今月末に引っ越しをすることになりました。


今はどちらかというと都市部に住んでいて、窓を覗くとビルディングやマンションが映り、絶えず車の走行音がします。出ればすぐに繁華街があります。一通りの店がそろっていて、新刊古書種々様々な本があり、ちょっと変わった服やアイテムがあり、パイプを買い損ねた雑貨店があれば、ドトール、スターバックスといった、よくこの記事を書いていたカフェから、オッシャレーなカフェ、そして癖のある喫茶店まであります。あとついでに、クレーンゲームとおもちゃやもたくさんあります。


ここには2年住んでいて、その間にはつまらないこともありましたけれども、街がずいぶんと気を紛らわしてくれました。変な意味ではなくって、歓楽を与えてくれる街だったわけです。


次に住むところは、近くに山があります。北を向いた玄関からも山が、南を向いたリビングからも山が見えます。歩いてすぐのところには大きな川まであります。駅の周囲はおなじみのチェーン店ばかり。近くの一番大きなスーパーマーケットは農協です。


下見の時に子どもを見かけました。頬張りきれないソフトクリームをドッボドボ、こぼすがままにしていましたが、気にせずよく笑っていました。子どもが笑っているなら、まあ、いい所に違いないでしょう。


G.W.中に本棚のものを梱包してしまったので、今読んでいる本を紹介するしかありません。ボルヘスの「七つの夜」を読み、幸田露伴「連環記他一篇」を読みました。どちらも岩波文庫です。


別に意味なくたまたま続けて読んだふたりですが、とてもよく似ているように思いました。


まず博識が高いこと、加えてただ知識があるだけでなく、その興味が世俗的有用性から浮いたところにあるのが似ています。幸田露伴が漢学に篤いのは当時の知識人として当然といえば当然ですが、森鴎外や夏目漱石とちがい近代西洋の知をくぐらずに(それが近道か遠回りかは知りません)いたこと、それでいて現在でも読みうる文章をつくったことはやはりユニークです。


そしてその作品が、語られるものであるという点でも共通しています。「七つの夜」は実際の講演が下敷きになっているので、そのスタイルが語りであるのは当然ですが、他の小説作品でもその傾向が強いと思います。それはボルヘスが古今東西の逸話から材をとっているから、というだけでは説明がつきません。むしろ問題にすべきなのは、その題材への態度でしょう。


今手元に他の本がないので感触だけでものを言って申し訳ないのですが、ボルヘスはそれら逸話を解釈しようとはしていません。もちろん、ボルヘスなりの認識・理解の仕方があるのは仕方ありませんが(例えば「七つの夜」の『第四夜 仏教』について、当の東洋仏教国に住むわたしたちは、ずいぶん理想的だなあとつい思ってしまうでしょう)、勢い込んでボルヘス流の解釈をしようなどとは決して思っていないでしょう。自分を、不断の語り手のひとりとして身をおこうとしているのです。


幸田露伴もその傾向が強いように思えます。どうも自分があって、それから作品があるという感じがしません。夏目漱石ならば、人間の関係性への固執があって、それが作品を生み出しているように思えるのですが、幸田露伴にはこの種の個人的な主題というのが希薄なように思えます。「とにかくまずは書きたいお話があるからそれを書いた、それが自分なり現在なりとどう関わるかは一向に知らないけれど、おもしろいのは確かだろう、ほらどうだ」といった具合です。


今回文庫に収められた『プラクリチ』でも、『連環記』でも、恋愛のもつ破壊と想像の力が言われますが、別にそれは深められる主題といったものではありません。先行するお話しにくっついてきたというだけで、殊更に重大視するようなことではないのです。幸田露伴の語るお話を分析したところに意味はありません。語り自体の中に、おもしろさはあるのですから。


せっかくなので、引用もしておきましょう。


「ここぞと思う室の戸を寂心は引開けた。すると是は如何に、眼の前は茫〻漠〻として何一ツ見えず、イヤ何一ツ見えないのではない、唯これ漫〻洋〻として、大河の如く大湖の如く大海の如く、漪〻たり瀲〻たり、汪〻たり滔〻たり、洶たり沸たり、煙波模糊、水光天に接するばかり、何もなくして水ばかりであった」


引用はしんどいけれども、読むのはとても楽しいでしょう。


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