「BUTTER!!!」(ヤマシタトモコ、講談社)
は?超メジャーのマンガって。何百件レビューが出てんだって話。今さら書いたっておせーし。今さら何が書けんの?ちょっと。うけるんですけど。もういいでしょ。マイナーメジャーみたいな本をとりあげればいいじゃん。そうすりゃ、「こいつわかってんじゃん」って誰かが言ってくれるよ。それを何?今さら売れてるマンガ?正直言うけど。やばいでしょ?お前がそんなのに手を出したってイタいだけだって。
でも仕方ないでしょう。読んでいいと思ったのだから。
こんにちは、てらこやです。
「HER」や「ドントクライ、ガール」で2011年の「このマンガがすごい!」をにぎわしたヤマシタトモコによる初の連巻もののマンガです。
──この後、マンガの内容に触れますでのご注意ください。──
明彗高校に入学した女主人公、荻野目夏はB系=ヒップホップダンスに憧れ「ダンス部」に入学しますが、そこはダンスはダンスでもソシアル・ダンス。つまり社交ダンスだった……というのが話の発端です。
一方男主人公、端場敬弘は、典型的なオタク少年であり、非リア充の少年であり、自己の対人関係、経験の少なさへのコンプレックスからひねくれている少年として描かれます。端場は同じ中学の被虐的な性格の男子生徒からの策略により、意図せず社交ダンス部に入部することになります。
他に入部したのは、背の高く、もっさりとした印象の柘百合子、一転華やかな雰囲気の掛井涼。先輩には天才型の二宮先輩(女)と、それに追随する高岡先輩(男)がいます。まあ、彼らによる社交ダンスを題材とした、群像劇ですね。
偶像劇なのでそれぞれの人物が、それぞれの問題を抱えています。例えば拓さんは自身の容姿に対する自分自身で抱えこんだコンプレックス。掛井くんに関しては、家族問題に発する、自分自身の我を出すことへの恐れ。これらもすべて興味深くて、どれだけでも書きたいという欲求に襲われるのですが、なんとかよしておきます。どうかこの辺りに関しては2巻から3巻にかけて読んでください。
てらこやが取り上げたいのは、2巻です。プロのダンサーである宇塚京介の前で見事にずっこけてしまった。この年頃の子としてはこの上はなく恥ずかしい思いのした女主人公夏は、自分がはたして社交ダンスを本当にやっていきたいのか迷います。そりゃそうですよね。もともとヒップホップのダンスをやりたかった夏。ふがいない端場への反発から続けてきたものの、プロのダンサーの前での失態は、彼女にダメージを与えます。
このマンガにおいて夏は天才でもなんでもありません。ごくフツーの女の子です。自身のダンスへの不信も、天才が一度は通る成功へのひとつの障壁=成功談への布石ではありません。彼女にとって、その失敗は自身の限界を示す警告、もっっと別の、イケてる道があることを囁く甘言でしかありません。
他にもっと自分を活かす道があるのではないか?そう迷う夏に対して、今の道をがんぱってみろよと訴えかけるのはあまりりにも正しすぎる人々です。
夏と同じ1年生で、学年代表を務める渡谷ひかるは言います。ちなみに彼女は容姿も端麗で、言わゆる「イケてる」人の代表みたいなひとです。
「わたし超勉強してる 超してる まじ超」
そしてこう言います。
「『失敗するかも』とかも『恥かくかも』『怖い』で100出さないとか 踏み出さないのは論外 クソつまんない」
それを受けて端場がどもりながら言うわけですね。
「…それ!!…100出して楽しくないわけないし楽しくなかったら悪いわけないし楽しくなくちゃダメ……てのを言いたかった…です!」
ある程度の年齢を過ごし、社会的経験とやらを過ごしたひとは苦笑するかもしれませんね。100を出すどころか、必死に堪え忍んだ結果がいちじるしく自分の意に反することなどしょっちゅうだ。それなら100どころか、なるべく自分のエネルギー消費を減らして、毎日を無難にやり過ごしていく方がどれだけ安泰な道であるか!
でもね、てらこやはやっぱりそうした社会的実状であるとか常識であるとかよりキレイ事をとりたいんです。実際の、腐った犬のような臭いを嗅いだことのない高校生たちによるキレイ事を許容してあげたい。彼らに社会の厳しさであるとか、現実であるとかを早くから知らせておくべきだという意見もわからないでもないけれども、やっぱり彼らには、キレイ事を言い続けてもらいたい、というのがてらこやのぎりぎりの所での判断です。
それはもしかしてすごく無責任であるかもしれません。だって、就職試験であるとか、入社早々にキレイ事の通じない社会とやらに触れるわけですからね。もしかしたらその社会の毒にやられて病んでしまうひとも現れるかもしれない。
でもね、はじめから社会に順応した人間を作りあげるよりも、たとえキレイごとであっても、それに反する考えをもったひとが実際の社会に参加する方が、長期的にみればよいと思うのですよ。そうした人が実権を握った際に、あるいは意外と若い時期から、社会のこうあるべしという体制に異議を唱える可能性があるわけですからね。妙にものわかりがよくって、上の言うことにへいへいと愛想笑いを浮かべて従う人間よりは、てらこやは彼らに可能性を感じます。
構造上、このマンガのラストは文化祭になるのでしょうか?そこに恋愛要素が含まれるのか?それともこの調子でいちクラブ活動として終わるんでしょうか?なかなか興味深いところです。媒体が月刊アフターヌーンなので無理に恋愛成就エンドにはなりにくそうですが、では一体どのようなラストになるのか、来年の楽しみが増えててらこやとしては嬉しい限りです。
BUTTER!!!(3) (アフタヌーンKC) | |
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