アヤとのデート中にきたチナツからの連絡を僕は無視した。

返事はしないつもりだった。

だが翌日もチナツから連絡がきた。内容はやはり逢いたいとメッセージに書いてあるだけで詳しい理由は書いていなかった。

 

「・・・・」

 

チナツに何かあった。

彼女が困っている・・・そう感じてしまった。

 

僕はメールやチャットの文面でちまちま話し合うことが嫌いなタイプなので、思い切ってチナツに電話で連絡を入れた。

 

「もしもし、チナツ?」

 

「もしもし、ショウさん・・・電話してくれてありがとう」

 

「・・・なにかあった?」

 

「・・・先週はごめんなさい。わたしあの日どうかしてた」

 

「・・・・・」

 

そんな話はもういいと思ったがそれだけで連絡をくれたわけではないだろうと思ってしばらく彼女の話を聞いた。

 

「わたしお酒もだいぶ飲んでたし・・・ショウさんを失ってしまうって思って気分がハイになってしまったの。本当に反省しているわ。ごめんなさい」

 

「・・・手の傷は大丈夫なの」

 

「ありがとう。傷はもう大丈夫・・・本当にわたしどうかしてたの。ごめんなさい」

 

チナツの言い方を聞いていると 僕とチナツとの交際はまだ継続していて先日のトラブルは大喧嘩の類であり、それの謝罪をこの電話で行い、仲直りを画策しているのでは・・・という気分になってきた。

 

彼女の中では僕とはまだ別れていない。関係は修復できる。・・・本気でそう思っているならばこの電話で完全に否定しなければならない。

 

「・・・謝りたくて連絡してきたのかな・・・僕らはもう・・・」

 

「ううん、それだけじゃなくて。ショウさんに伝えたいことがどうしてもあって」

 

「えっ・・・」

 

「わたし、主人と離婚が成立しそうなの。彼もようやくわかってくれて」

 

「・・・そう・・・よかったね」

 

「たぶん来月か再来月には手続きが終わりそう」

 

「そうなんだね」

 

チナツはいい女だ。離婚が成立すれば僕を諦めて違う男に気がいくようにもなるし、独身なのだから色々と婚活もしやすくなるだろう。

旦那からの束縛もなくなる。素直によかったと思った。

 

「あとね・・・電話じゃなくて逢って言いたかったんだけど」

 

「えっ・・・」


いや、チナツと逢ってはいけない・・・チナツとはもう逢わない。

そうアヤと約束したばかりだ。

 

 

 

先日彼女の部屋で逢ったときも結局セックスしてしまった。

恐ろしいほどの快楽を共有しあう中で一瞬彼女との関係を継続すべきとまで考えた。

 

閉鎖的な空間で彼女の色気にあてられるとおしまいだ。

 

なんだかんだ言いながら僕らはずっと肉体関係にあった間柄だ。気持ちが揺らぎ、絶対にセックスしてしまうだろう。

 

 

「いや、ごめん・・・逢って話すのはやめよう」

 

「そう・・・・・・逢ってくれないなら、この電話でいいかな」

 

「・・・電話で済むことじゃないのかな」

 

「できれば逢って話したかったんだけど」

 

「・・・・・・とりあえず言ってみて」

 

 

「・・・生理が来ないの」

 

 

「えっ・・・・・」

 

ちょっと想定していなかったことを言われ、一瞬頭が真っ白になった。

 

 

(どういうことだ・・・チナツはピルをずっと服用してくれていたはず・・・)

 

 

「・・・どれぐらいきてない?」

 

「予定日よりも1か月ぐらいかな」

 

「・・・先日僕とセックスした・・・その前の週が生理だって言ってたよね」

 

「あの週で来なかったの。ショウさんとエッチしたあと来るかなって思ってて・・・来なかった」

 

「妊娠検査薬は?」

 

「怖くてまだ試してない・・・」

 

「・・・・・・ピル飲んでたんじゃないの」

 

「ちゃんと飲んでたわ。でも・・・来てないの」

 

一瞬、チナツが僕を手に入れるためピルをわざと飲んでいない時期があったか疑った。だがチナツはそこまで性格がおかしい女子ではないと信じたかったので言わなかった。

 

チナツの言っていることが本当であれば、このまま無視はできない。

僕はなんらかの責任をとらればならない。

これはもうチナツに逢うしかない・・・そう思った。

だが逢う場所は彼女の自宅ではまずい。その場の雰囲気でまたチナツの色気に押されてセックスしてしまいそうだ。どこか化粧室のある施設で試して、何事もなければその場でさよならできる場所を選ばないといけない。

 

「わかった。じゃあ、明日どこかで逢って検査薬を試そうか」

 

「えっ・・・うん・・・逢ってくれるの?」

 

「そういう状況なら逢わないわけにはいかないよね」

 

「ありがとう。うれしい」

 

僕が独身時代、ようこという女性と妊娠検査薬を試したときのことを色々と思い出しはじめた。

あのときは最初、安産祈願で有名な神社の化粧室を使った・・・。

 

「・・・僕の会社の近くにあるシティホテルってわかる?明日そこに来れる?」

 

「えっ、うん、わかる・・・行けると思う」

 

「あのホテルならロビーが大きいし・・・トイレも使えると思う。時間は19時でもいいかな」

 

「うん・・・」

 

「検査薬は僕が買っておくから」

 

「お薬はもう買ってあるの」

 

「そう・・・じゃあ、明日二人で結果を見よう」

 

「うん・・・ありがとう、ショウさん」

 

 

 

 

 


つづく