翌日から年末、年始の正月休みとなり 一応部屋の掃除をしはじめた。
ハルナがざっと大掃除をしてくれていたおかげで部屋やキッチン、バスルームは綺麗だったがイブの日にハルナとセックスしているのでベッド周辺は彼女の髪の毛が散らばりゴミ箱には精液を拭いたティッシュが残っていた。
ゆうかは僕に彼女がいるのは承知の上だったのでセックスの痕跡がゆうかの目に入っても激怒しないだろうが、気分を害するよりはいいだろうと思い、あちこち綺麗に掃除機をかけ、ハルナが居た形跡を消していった。
ゆうかに逢う年明けの3日まで時間があったので実家に一度帰ろうかと電話したが何度電話しても誰も出なかった。
たぶん旅行にでも行っているのだろうと思った。
そして大晦日・・・NHKの紅白を見ている最中、風呂に入ってちょうど脱衣所に出てきたときだった。
(ピンポン・・・)
玄関のチャイムが鳴ったような気がした。
(??)
(ピンポン・・・)
「・・・なんだろう、宅配か?」
時計を見ると20時をまわっていた。
濡れた髪のまま少し慌てて部屋着を着ようとすると
(ガチャ・・・ガチャリ・・・)
と玄関ドアを開ける音が聞こえた。
僕は前妻との生活時代からのクセで内鍵はかけなかった。
ドアが開き・・・人影が見えた。
・・・ハルナだった。
「あれっ、ハルナ??」
「あっ、ショウさん、ごめんなさい・・・いらっしゃったのですね。お電話したのですが・・・」
「電話・・・ああ、ごめん、風呂に入っていたんだ」
「そうだったのですね・・・入ってもいいですか」
「ああ、もちろん・・・」
いつもはスカート姿が多いハルナだったが、この日は今まで見たことがない紺色のパンツルックだった。
やはり生理中なんだろうと思った。
「・・・おかえり、ハルナ」
「・・・ただいま、ショウさん」
「・・・どうしたの、お正月はご家族と過ごす予定じゃなかったっけ」
ハルナは生理中、僕と逢うことがほぼなく、正月は家族と過ごすと言っていた。
なので年明けまで自宅に来ることはないと思っていたので面食らってしまった。
台所の食器棚に段ボールから出したゆうかのコップ、ベッドサイドの引き出しには下着が置いてあった。
もしハルナに気づかれたら・・・何て言おうか・・・言い訳が見つからないままだった。
「おばあさまは最近寝るのが早いんです。なのでショウさんに逢いたくなってしまって・・・あっ、でも新年開けたら帰りますね」
「ああ、なるほど、新年のカウントダウンを僕と一緒に、ってことね」
「そうです、あと、おせちを持ってきたので・・・」
そう言うと重箱のようなものが入っている風呂敷包みを僕に差し出した。
ふわっと美味しそうな和的な香りが漂った。
「えっ、そうなんだ」
「よかったら、明日の朝食べてください」
「食べる食べる・・・って、ハルナは泊まらないで年明けたらすぐ帰るってことね」
「はい・・・すいません、明日はおばあさまと約束してることがあって」
「いや、大丈夫。ご家族とのお時間、大切にしてください」
「すいません・・・」
「ちょうど今から酒飲もうと思ってたんだ。ハルナもどう?」
「わたしは運転があるので・・・」
「ああ、そっか・・・おせちって今食べていい?酒のアテに」
「だめです!お正月の朝に食べてくださいね!」(笑)
「まあ、そうだよね」
「あのぅ・・・1つ提案というか、してみたいことがあるんですけど」
「えっ、なにかな?」
一瞬抱いて欲しいと言われるのかと思ったが彼女は生理中だったのでさすがにそれはなさそうだ。
「あの・・・よければ年明けにかけてドライブしてみたいなって思いまして」
「あー、なるほどね、ハルナのベンツでね」
「どうでしょう?」
「いいんじゃない、素敵なアイデアだと思うよ」
「よかったぁ・・・嬉しいです」
ハルナをリビングに招き入れ、お茶を出そうとした。
「あっ、わたしがやりますね」
「えっ、ああ、うん・・・」
食器棚にはダンボールから出したゆうかのコップが置いてある。
ハルナをキッチンに入れないようにして、やりすごそうとしたができなかった。
「・・・・・」
ハルナはゆうかのコップに気付いたようなリアクションは見せなかったが、急に彼女の中にどこか物寂しい雰囲気を感じた。
いつもの元気さがないというか、何かを思いつめているような空気を感じ取った・・・。
(まずいな・・・気付かれたか・・・??)
23時半ぐらいに家を出て首都高速に乗ることにした。
家を出るまでの間、二人でNHKの紅白を見ながらゆっくりと時間をつぶしていると、いつの間にかハルナがテレビ横のオーディオラックから1枚のCDを手にとってじっとそれを見つめていた。
そのCDはゆうか関連グッズが入ったダンボールから僕が先日出して聴いていたフィル・コリンズのベストアルバムだった。
(あっ・・・)
そもそもゆうかや他の女性らが残していった服やグッズ類をイッキに片づけたのはハルナだった。
その片づけているときに ゆうかのCDに気付いていたとすると、
(何故自分が片づけたはずのCDがダンボールの外に・・・)
と勘のいい女性なら気付いていたかもしれない。
(・・・・まずいな・・・)
ハルナは手にとったそのCDを何も言わずに元あった位置に戻すと僕に声をかけた。
「ショウさん、少し早いですが、そろそろ家を出ませんか?」
「あっ、ああ、うん、出ようか・・・」
テレビでは紅白がオーラスに近づき、大物歌手が歌い始めていた。
ドライブするだけなので僕は部屋着のまま厚めの上着をはおって家の外に出ようしたときハッとあることを思い出した。
「あ、そうだ!!わすれるところだった!」
「えっ、なんですか」
「ハルナへのプレゼントだよ」
「あっ、そんなこと言ってましたね」
僕はリビングに慌ててもどるとテレビ台の引き出しから先日わたしそびれたハルナへのクリスマスプレゼントを出して彼女にわたした。
「まあ! 開けていいですか?」
「どうぞどうぞ・・・」
「・・・・うわあ、素敵な手袋ですね!ありがとうございます!」
「この季節にもいいし、ドライブするにもいいかなって思って」
「そうですね!じゃあ、早速つけさせていただきますね」
ハルナはいっきに嬉しそうな表情になって、僕が渡したGUCCIの革の手袋をはめた。
「ああ、似合うね、いいんじゃない」
「なんだか運転することに気合が入ります。素敵なプレゼント、嬉しいです」(笑)
二人で家を出ると、ハルナが持っていた合鍵でドアを閉めてくれた。
自分ではない他人が僕の家の鍵を開け、そして施錠をする・・・
たったそれだけのことなのに不思議な肉親感を覚えてしまう。
エレベーターに乗るまでの廊下で僕の後ろを一歩下がってついてくる彼女から長年同居している妻のような空気をやけに感じとり、ハルナとの今後について迷いが生じてしまっていた。
今思い出してもハルナは女性として何処にも非が無い素敵な日本女性だった・・・
「ああ、雪が少し降ってますね」
「天気予報では降らないって言ってたけど、降ってきたね」
「これぐらいだと積もることはなさそうですね・・・」
ハルナの愛車の助手席にもぐりこんでいつものように彼女に運転をまかせた。
僕からもらった手袋をはめながらステアリングをきるハルナの顔はとても上機嫌に見えた。
首都高に入ると たぶん年越しカウントダウンを僕らと同じようにドライブしながら祝おうという車が多いように見えた。
深夜の首都高・・・美しい夜景の中を走るハルナのベンツ。
制限速度以上で僕らの車を追い越していく車の赤いテールランプがいくつも見え、遠くに消えていった。
時計を見るとあと15分ほどで新年だ。
カーステレオからはハルナがセットしたCDの音楽が流れていた。
「手袋、どうだい?」
「はい、いいかんじです。わたしの手にもうなじんで・・・とても気に入りました」(笑)
するとベンツのCDチェンジャーがフィル・コリンズのベストアルバムをかけ始めたことに気付いた。
ハルナもゆうかと同じアルバムをもっていて、それがたまたま車内でかかったのだ。
するとハルナはさっ・・・と無言でカーステレオのスイッチを操作してそのCDをスキップした・・・。
そんなハルナの動作に気づき、僕はハッ・・・となった。
僕にゆうかを思い出させる曲が車内にかかるのをハルナは嫌ったのだ。
ハルナと半同棲の関係になって数ヶ月が過ぎていた。
彼女は部屋を片付けながら僕とゆうかとの関係値、二人の愛情の深さに気付いていたのかもしれない・・・と思った。
ハルナは僕の知らないところで僕の前カノ・・・ゆうかに対して強い嫉妬心を抱いていたのだ。
それなのにこの日、以前片付けたはずのゆうかのコップやCDが部屋に戻っていた。
深い追求はされなかったが、ハルナは僕がゆうかのことをまだ引きずっていると気付いてしまったのだ。
ハルナは・・・悔しかったのだ。
車は都心をぬけ、湾岸方面に向かっていた。
新年まであと数分というところで目の前にベイブリッジが見えてきた。
カーステレオの音楽をラジオに切り替えると新年のカウントダウンに向けたプログラムをやっていた。
ハルナが僕に口を開いた。
「もうじき新年ですね」
「そうだね」
「今年は・・・わたしにとって忘れられない年になりそうです」
「・・・・・」
「ショウさんと出逢うことができて・・・すごくいい年でした」
「僕もハルナと出逢えていい年だったよ」
「ありがとうございます・・・ショウさんにはいろんなことを教わって」(笑)
「あはは、そうだね」
「自分の身体が自分ではないような気がするところまでいってしまって」(笑)
「・・・・」
「なんだかずっと夢見心地でショウさんとお付き合いしているような気分です」
「あはは、ありがとう」
「ショウさんは・・・わたしのこと好きになれそうだって言ってくださいましたけど、」
「えっ、ああ、うん・・・そうだよ。ハルナのことは好きだよ」
「・・・嬉しいです。わたしもショウさんが大好きです・・・・」
「・・・ありがとう」
「大好きです・・・大好きですけど・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・たぶん、最近・・・わたし、ショウさんにふさわしくない女だなって思うようになってしまって」
「・・・え・・・どうしたの、急に」
突然ハルナが心境について語りだした。
僕は少しどきどきしてしまった。
「わたし結局・・・前カレのことや、家族のこととか今年解決できず・・・来年も引きずっていくことになります」
「・・・・・・」
「そんなわたしのこと、ショウさんやっぱり、嫌だろうなって思ってしまって・・・」
カーステレオでラジオのパーソナリティが新年まであと1分と告げた。
ベイブリッジに差し掛かると周囲の車のスピードが落ち、渋滞気味のノロノロスピードになった。
ハルナの頬に、すうっと涙が流れた。
新年のカウントダウンがあと10秒となった。
彼女はそっと手袋をはずし、自分でその涙をぬぐった。
ラジオから新年のカウントダウンのアナウンスが流れた。
3,2,1・・・
同時にお台場海浜公園の方角で花火があがった。
パン・・・ぱぱっ、パン・・・
(新年明けましておめでとうございます・・・!!)
ラジオから新年のアナウンスが流れ、美しい花火が夜空を彩る中、ハルナの涙は流れ続けた。
高速道路は渋滞区間が続いていた。
花火を見るふりをしながら時々涙をぬぐうハルナ・・・。
車はゆっくりと、まるでスローモーションのように走り続けた。
「ぐすっ・・・ぐすっ・・・・ううっ・・・」
僕はかける言葉が見つからず、ハルナを抱き寄せることもできず、涙を流す彼女を見つめ続けていた・・・。
一旦高速を降り、お台場のビル街の一角に車を停めた。
「ううっ、ううっ・・・ぐすっ、ううっ・・・」
ハルナを優しく抱きしめると、彼女の涙は止まらなくなった。
「ううっ、うぁぁぁん・・・ううっ・・・うううっ・・・・」
つづく

















