なんだか、捨てきれない。

 

 何が捨てきれないかというと、中日・与田剛監督の指揮官としての理想的なイメージだ。

 

 思い出すのは、唯一、与田監督に質問を直接ぶつけることができた、昨年秋のドラフト会議でのことだ。

 

 ドラフト注目株の大阪桐蔭・根尾昂の交渉権を獲得した与田監督は、筆者のややきつい質問にも表情を変えることなく、優しい口調で答えたものだった。

 

 その内容から感じられたのが、選手へのリスペクトだった。

 

 筆者が質問したのは、根尾の育成方針についてだったが、与田監督は、「まず、なぜ、彼がこれほどの選手になったのかっていうのは、中学や高校時代など過去をしっかり紐解いていかないといけないと思う。彼がこれまで培ってきたことと、プロに入って全く違うことをさせてしまうのは良くないと思います。彼を作り上げてきた要因を研究していきたいと思う」と話したのだった。

 

 選手を尊重している。

 その時に思ったのは、与田監督にある信念だった。

 

 意外だと思う人がいるかもしれないが、

 日本人の指導者の多くには、この姿勢が足りない。

 プロだけに限ったことではなくて、指導者や先生は自分が立場が上だということを前提にして、選手と接しようとするのだ。

 自分の指導理念の中に当てはめて、それにそぐわない選手は「あいつはダメだ」と言ってしまう。

 

 指導者と選手の関係とは、本当は対等でなくてはいけなけれど、

 日本はどうしても、監督の言う通りに選手がいうことを聞くものだと、意思を尊重することなく一方的な指導を行なっているという現実がある。

 

 メジャーリーグを経験している千葉ロッテの吉井理人コーチが以前、メジャーに移籍して、衝撃を受けた体験の一つとして、コーチとのやりとりを挙げている。

 

 吉井さんの証言はこうだ。

 

「入団してすぐ、ピッチングコーチから“俺はお前のピッチングを知らないから、お前の方から教えてくれ”と言ってくれたんですよね。極東の島国から来たどこの奴ともわからんようなピッチャーを尊重して、一人のプロ野球選手として見てくれた」

 

 ドラフト時の与田監督の言葉からは、根尾を当たり前にいる選手という扱いではなく、一人の人間としてみているように聞こえて、ものすごく、いい印象を持ったのだった。

 

 今回の件、詳しい経緯がわからないのでなんとも言えないけれど、僕個人として期待するのが一つだけある。

 

 それはこれからも与田監督には選手を尊重する指揮官でいてほしいということ。

 

 試合後に、監督(与田さんがという意味ではなく)自らが、敗戦の責任を選手に押し付けるようなコメントをしたり、あるいは、試合中の強制送還などが日本の野球界ではかなり多い。その際にいつも思うのは、選手へのリスペクトのなさだ。

 

 敗因として、あのエラーが、勝負所での失投がという表現はあって良いと思う。

 

 しかし、上に立つ人間がそれを名指しして批判するのはあるべき姿ではないと思う。

 

 「お前」という表現が不適切だと考える要因に、選手への尊重だとするならば、与田監督はぶれていないとも言える。

 

 だから、与田監督には、これからも選手を尊重し、リスペクトする指揮官でいてほしい。

 

 その姿勢を見せ続けることが、今回の件の正当性を伝えることに繋がるように思う。

 

 非常に良いことだと思う。

 

 千葉県高校野球連盟が今年の夏の県大会の予定を発表。

 従来の休養日に加えて、2日間プラスするということを決めたとのことだ。

 

 

 どのようにして調整を可能にしたのかは気になるところだが、大きな改革であると同連盟を評価したい。

 

 もともと、千葉県の夏の大会は全国で有数の過密日程だった。

 

 全国の地区大会を見ていると(北海道を除き)、決勝から逆算して8日間で5試合、4試合、3試合と分かれていて、

 さらに、一度も連戦がない地区、1度連戦がある地区、2度連戦がある地区に分類されるのだが、千葉県はこのうち、8日間で5試合、2度の連戦があったのだ。

 

 ちなみに、去年は記念大会で代表校数が増えているので、この条件には当たらないのだが、通例はそうなっていたのだ。

 

 昨年の夏の大会前、その日程への疑義を唱える意味も含めて千葉県高野連に取材を申し出た。一発回答の快諾ではなかったが、事情を説明していくと理解して受けてくれた。

 

 その際の記事がこちらだ。

 

 過密日程の高校野球へ3つの提案と、千葉県高野連の「約束」

 

  かなり切り込んだ記事になったと思う。

こうした日程の犠牲者になった木更津総合の千葉くんの想いを聞いていたから、取材自体もダイレクトに問題点を指摘させてもらった。

 

 ただ、これだけ切り込めた理由がちゃんとあって、その一つは、千葉県の高校野球連盟がしっかり聞く耳を持ってくれていたということ。記事だけでは歯切れの悪い苦し紛れのコメントと感じたかもしれないけれど、自分たちの事情をしっかりと説明した上でご自身の無知を認識し、理解を深めようという意思がすごく感じられた。

 

 あの取材からほぼ1年が経ち、こういうニュースが流れてきた際に思ったのは、当時の取材での情景だ。彼らが頭ごなしに人の話を聞かない方達だった、こうはならなかっただろう。組織の中身、人事異動などで当時からは変化があったりもしたと思うけど、組織として、反省を生かして形にしたという姿勢は褒められるべきだ。

 

 とはいえ、今の高校野球界には変えなければいけないことがまだまだたくさんあるので、千葉県高野連には継続して変化し続けていって欲しいと思う。

 

 人生の中で、一歩を踏み出すのは簡単なことではない。でも、一歩、踏み出した人間は一時の後退はあっても、また、次の一歩を踏み出そうとする。しかし、一歩も踏み出せない人間は人生の中で、何も踏み出せないまま生涯を終える。

 

 これはある人から言われた言葉なのだが、千葉県は踏み出した側の組織になったと言うこと。

 改革といっても、それは日程のみで「球数制限じゃない」と言う人もいるだろう。しかし、一歩踏み出した組織はまた踏み出せると僕は千葉県高野連に期待したい。

 

 では、それぞれの地区の高野連は果たしてどうだろうか。

 

 踏み出せる組織なのか、そうでないのか。

 

 結構、重要なポイントであると思う。

 

 西武の高橋光成が3勝目を挙げた。

 

 もがいているなぁって思う。

 

 今年はオフ期間の自主トレで、初めて菊池雄星に師事。

 多くのパーソナルトレーナーの手ほどきを受けた。ストレングスのトレーニングだけでなく、メンタルなど、多岐にわたる。菊池雄星と過ごした3週間は非常に貴重だったはずである。

 

 だから、あの後の彼の行動・言動には大きな変化を感じたものだった。

 

 しかし、技術や体力はというと、そう簡単なものではない。

 

 「メジャーをかなえた雄星ノート」(文藝春秋)の取材をしていた際、菊池雄星がこんなことを言っていた。

 

「石垣島の自主トレに来ていただいたらわかると思いますけど、たった3週間で変わることはないと思います。変えられることがあるとすると、それはマインドです。若い選手たちを連れていきますけど、彼らにも言っているのは、3週間で野球は上手くならない。1年間かけて、身につけていくためのマインドをこの3週間でつかむのだ、と」

 

 そりゃ、誰だって、最初からバーンと結果を出せるような天才でありたい。

 

 もがく時間なんかなくて、すんなり結果を出したいものだけど、やっぱり、その期間は必要だと思う。

 

 思えば、プロ5年目の雄星って、5勝11敗。

 当時、メディアからもボロクソ言われていたのを覚えている。

 僕も、本人に、「もっとカーブを投げたら?」とか「力抜いて投げれないの?」とか言ったものだった。

 

 みんな2017年の雄星や、メジャーで勝利を挙げている雄星ばかりを頭に思い浮かべるのだけれど、彼だって、どん底の時期はあった。

 

 「あの雄星と光成は自主トレをしたんだから同じになる」

 

  雄星だって苦しんでいた。

  色々、書かれたりもしたし、見られ方もした。

 

  もちろん、雄星には岸孝之と炭谷銀仁朗がいたというのはあるけれど、要するに周囲の度量の問題も関係すると思う。

 

 3週間で得たマインドを1年間続けられるか。

 勝っても、負けても、変わらずに。

 

 雄星でもう一人、思い出したのが中日の根尾昂。

 

 去年、取材をしていた時から、「雄星と似ているよなぁ」と感じていた。

 ものすごく真面目で努力家。人の意見をなんでも聞こうとする好奇心のたかさ。大人をリスペクトしていて、全ての人が信頼できるという目をしていた。

 

 その彼が、今、メディアからあれこれと言われているらしい。

 

 「考えすぎ」「頭でっかち」「柔軟性がない」

 

 など。

 

 雄星もプロ入り後にはそう言われていた。

 

 「読書家はいいけど、本を読みすぎて、頭が偏っている」

 「情報を入れすぎて、整理できていない」ーーー

 

 など。

 

 二人は似ている。

 

 根尾も時間をかけて、立派なアスリートになっていくタイプなのだろうと思う。

 

 彼らがもがいている時間をしっかり見つめていきたい。

 

 誰だって、最初から天才でありたいものだ。

 

 だけど、そうはいかないから、もがき苦しみ、それを乗り越えてくるのだ。

 

 

 「心技体はかけ算」ーーー。 「メジャーをかなえた雄星ノート」(文藝春秋)より