『100年のLOVE SONG』(第19話)

展望台でトレドを二人で眺めながら、しばらくの間過ごしていた。
こうして、梅乃と二人でゆったりとした時の流れの中に身を委ねて、トレドを眺めていると、現在の時間を忘れ中世のヨーロッパに、吸い込まれて行く様な感覚に陥る。しかし、それは梅乃と居れば、あくまで心地よい感覚でしかなかった。
その後、トレドの町並みに戻り、フランスのゴシック建築である、カテドラルに行き荘厳なステンドグラスの輝きを目の当たりに見た。
ムデハル様式のサント・トメ教会にも行き、梅乃に特徴を説明してもらいながら眼に焼き付けて来た。
建築様式に付いては、ゴシックの様なアーチ型の天井をした物であれば分かり易いが、ロマネスク様式にしろムデハル様式にしろ、ほんの些細なレンガの並べ方や模様の取り方等によって識別する物であり、注意深く見て特徴を見つける必要が有る事を教わった。
この近辺には、伝統である象眼細工の工房が有り、私は興味深く製作風景を見学した。
その近くに、やはり伝統である焼き物の工房も有り、梅乃は美しい色使いに関心を示していた。
私の方は、どの様に見ても怪しげな雰囲気の無い、優雅で荘厳なこの街に拍子抜けしていた。100年前の出来事は、いくら考えても想像が付かなかった。
しかし、タホ川の外側の新市内に成ると、人影も少なく成る所も有り、女性一人では安全とは言えない場所も有りそうであった。
しかし、景観に変わりは無くても、100年前の遠い過去の出来事を、その過ぎ去った時間を取り戻して、これからの未来を予想する事等出来るはずもなかった。

12.手料理
トレドを後にして、マドリッドの梅乃のアパートに帰って来たのは、午後6時を回っていた。
帰る途中、二人で近くのフードショップに寄って、夕食の食材とヘレスのシェリー酒を買って帰った。
梅乃が、今から手料理で和食を作ってくれると言うのである。
買った食材は、スペインの魚介類で、それを使いテンプラを作って見ると言うのだ。
梅乃は、昨日食べたバスク料理のフリッターが美味しかったので、それを真似て作って見ようと言うのであった。
私は、食事の事は春香任せなので、梅乃が込み入った料理が出来るのか不安に思っていた。
「僕が、魚介類が好きだから、テンプラを作ってくれるのだと思うけど、肉も食べれるんだよ。・・・本当に大丈夫?」
「テンプラは料理としては難しいけど、それだけやりがいがあるのよ。少し、時間は掛かるけど、任せて置いて。・・・和也さんが帰る前に作って見たかったのよ」黄色のエプロン姿に成った、梅乃が言った。
そのエプロン姿は、私から見て、新妻の様な馨が漂う新鮮な姿であった。春香とは違う、人間的な馨である。
「分かった、・・・手伝う事があれば言ってね。・・・でも、君はエプロン姿も良く似合うね。お世辞抜きで」
「そうかな。・・・有難う」
梅乃が料理している間、私は、日本の実家に携帯PCで電話しようと思ったが、日本時間が午前3時頃なのに気付き止めた。
その代わり、晴れの海タウンの春香に電話した。
「はい、大石です」と、春香が目の前に立体画像で現れた。
「春香、僕だよ」
「和也さんですか、特に変わった事は有りません」春香は、表情を変えずに言った。
「そうかい、・・・予定通り明日晴れの海タウンに帰るからね。時間は遅くなるよ」
「分かりました。お気を付けて」
「それから、橘梅乃さんとは、うまく逢えたからね」
「それは良かったです。橘梅乃さんの事は気に成っていました」
春香の表情が緩んだ様に見えた。
「今度、梅乃さんが晴れの海タウンに遊びに来る事に成ったからね」
「何時ですか?」
「まだ分からないけど・・・」
「分かりました。お待ちしています」と、春香が、微笑みながら言った。
「今、彼女のアパートからだけど、紹介しておくよ。・・・少し待って」
私は、梅乃をこちらに呼び、私の携帯PCを近づけた。これで写っているはずである。
「初めまして、春香と申します」春香は、緊張気味な表情を見せて挨拶した。

<続く>