『100年のLOVE SONG』(第10話)
6.再会
今日梅乃と逢えるかも知れ無い事を考えると、眠れないのではないかと思っていたが、心地よい疲れから正体無く眠ることができ、その朝、携帯PCの目覚まし音で、眼が覚めた。午前8時である。
携帯PCで日時をもう一度確認して見た。
2104年5月22日(木)午前8時1分と表示されている。
心の中で〈間違い無く今日が100年後の5月22日になるな〉と、呟いた。そして、〈もちろん、日本時間では無く、現地時間だよな〉と、呟いた。それくらい今日がその当日かどうか、不安だったのである。
ホテルで朝食を済ませ、日本の新聞を携帯PCで取り寄せ部屋の立体モニターで見ていた。
いよいよ来年から、火星にコロニーが建設される事が報道されている。完成には10年を予定しているそうである。
とても新聞を落ち着いて読む気に成れず、ストレッチ体操をしたり、腕立て伏せをしたりして過ごし、携帯PCの時間を見ると午前11時になっている。
部屋に有るクラシックな時計で、もう一度時間を確認してから、ロッカーに入れている服を取り出した。
洒落た、お気に入りである濃紺のアルマーニのジャケットとアイボリーのチノパンツに着替えた。ジャケットの下は白いピュアコットンでブルーのスタンドカラーの付いたシャツを着てみた。
私は、フォーマルとカジュアルを合わせて着るのが好きなのである。
友人は、私のファッション見て自己満足と言うが、何故かこんなファッションが落ち着けるのである。
着替えも完了して、髪も入念にドライヤーで決め、爪も綺麗に切って、内心落ち着こうとしているのだが、落ち着けない。
しかたなく外に出ようと思い、旅行バッグを持ってホテルをチエックアウトした。
ローマ水道橋に向かって歩きながら、どこで時間を潰そうかと考えていた。約束の時間まで2時間以上有る。
歩きながら見ていると、右手に少し小高い丘が見える。
その位置からだと、少し遠くなるがローマ水道橋が良く見渡せる場所に見える。私は、そちらの方に歩いて行った。
その場所に行ってみると、予想通り右斜めの方向にローマ水道橋が一望出来た。
私はその丘のベンチに腰を下した。
梅乃が夢の中で立っていた、アソゲホ広場も遠く成るが見渡せる。
正面に視線を移せば、セゴビア大聖堂が小さく見えている。
さらにその左手には、はるか遠くにセゴビア城も見えている。
私は、その場所が気に入り、約束の時間ぎりぎりまで、飽きもせず景色を眺めていた。
そこからのセゴビアの景観は、あくまで荘厳であり、私の気持ちを落ち着かせてくれるような、暖かい感覚を感じていた。
ふと、時間を見ると午後1時20分を過ぎている。
この丘から見る限り、梅乃の姿はまだ見えない。
私は立ち上がり、丘を下りて町並みの方へ足を向けた。
期待感で心臓が高鳴って来た。
すると、ローマ水道橋の約束したアーチ状の柱の下に、白いドレスを着た女性が現われて、アソゲホ広場に立ったではないか。
私は、旅行バッグを小脇に抱え走り出していた。まだ梅乃は気が付いていない様である。
最初の言葉は、何て言おうかと、下らない事を考えながら走っていた。
梅乃も気が付いた様で、こちらに歩いて来る。
アソゲホ広場の丁度真ん中当たりで、二人は立ち止まり向かい合った。
「・・・」私は、走った性で息苦しく喋ろうとしているが、声に成らない。
「約束どおり、来てくれたのね」梅乃が、爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「こ・・これは、夢じゃないんだね」私は、息苦しさと戦いながら、思いも寄らない事葉を喋ってしまった。
「ホホホ・・・、 これも夢かもね」梅乃は、少女の様な表情を見せながら笑った。
「えっ!ほんとに?」
「うそよ、現実よ。ホホホ・・・」と、言って梅乃は本当におかしそうに笑った。
私は、現実に梅乃に逢えた事に感動して、涙が出て来た。
こんな事は、生まれて初めてであった。
「あら、どうしたの?」梅乃が、急に心配そうな表情になり、聞いた。
「貴女に逢えて嬉しいのです。だって、逢いたかったけれど、半信半疑だったから」と、正直に言った。
「そうね。確かにそうね」と、言いながら梅乃は私の涙を、自分のハンケチで拭いてくれた。その表情は、全てを包み込んでくれそうな、聖母を感じさせる大人の女性であった。
私は、思わずこの場で梅乃に抱き付きたい衝動に駆られ、次の瞬間彼女を思い切り抱きしめていた。
梅乃は驚いた様子も無く、私の眼から止め処も無く、流れ落ちる涙をハンケチで拭いていた。
梅乃の美しい横顔を見た時、彼女の眼からも涙が一滴、零れ落ちたのを私は見逃さなかった。
梅乃から離れ、彼女の顔を真っ直ぐに見てみた。
そこには、優しく、知的で、澄んだ瞳の梅乃が、眩しく微笑んでいた。
そして、これは現実のなのだと感じていた。
何故なら、梅乃を抱きしめた時、彼女の温もりを身を持って感じられたからである。
<続く>
6.再会
今日梅乃と逢えるかも知れ無い事を考えると、眠れないのではないかと思っていたが、心地よい疲れから正体無く眠ることができ、その朝、携帯PCの目覚まし音で、眼が覚めた。午前8時である。
携帯PCで日時をもう一度確認して見た。
2104年5月22日(木)午前8時1分と表示されている。
心の中で〈間違い無く今日が100年後の5月22日になるな〉と、呟いた。そして、〈もちろん、日本時間では無く、現地時間だよな〉と、呟いた。それくらい今日がその当日かどうか、不安だったのである。
ホテルで朝食を済ませ、日本の新聞を携帯PCで取り寄せ部屋の立体モニターで見ていた。
いよいよ来年から、火星にコロニーが建設される事が報道されている。完成には10年を予定しているそうである。
とても新聞を落ち着いて読む気に成れず、ストレッチ体操をしたり、腕立て伏せをしたりして過ごし、携帯PCの時間を見ると午前11時になっている。
部屋に有るクラシックな時計で、もう一度時間を確認してから、ロッカーに入れている服を取り出した。
洒落た、お気に入りである濃紺のアルマーニのジャケットとアイボリーのチノパンツに着替えた。ジャケットの下は白いピュアコットンでブルーのスタンドカラーの付いたシャツを着てみた。
私は、フォーマルとカジュアルを合わせて着るのが好きなのである。
友人は、私のファッション見て自己満足と言うが、何故かこんなファッションが落ち着けるのである。
着替えも完了して、髪も入念にドライヤーで決め、爪も綺麗に切って、内心落ち着こうとしているのだが、落ち着けない。
しかたなく外に出ようと思い、旅行バッグを持ってホテルをチエックアウトした。
ローマ水道橋に向かって歩きながら、どこで時間を潰そうかと考えていた。約束の時間まで2時間以上有る。
歩きながら見ていると、右手に少し小高い丘が見える。
その位置からだと、少し遠くなるがローマ水道橋が良く見渡せる場所に見える。私は、そちらの方に歩いて行った。
その場所に行ってみると、予想通り右斜めの方向にローマ水道橋が一望出来た。
私はその丘のベンチに腰を下した。
梅乃が夢の中で立っていた、アソゲホ広場も遠く成るが見渡せる。
正面に視線を移せば、セゴビア大聖堂が小さく見えている。
さらにその左手には、はるか遠くにセゴビア城も見えている。
私は、その場所が気に入り、約束の時間ぎりぎりまで、飽きもせず景色を眺めていた。
そこからのセゴビアの景観は、あくまで荘厳であり、私の気持ちを落ち着かせてくれるような、暖かい感覚を感じていた。
ふと、時間を見ると午後1時20分を過ぎている。
この丘から見る限り、梅乃の姿はまだ見えない。
私は立ち上がり、丘を下りて町並みの方へ足を向けた。
期待感で心臓が高鳴って来た。
すると、ローマ水道橋の約束したアーチ状の柱の下に、白いドレスを着た女性が現われて、アソゲホ広場に立ったではないか。
私は、旅行バッグを小脇に抱え走り出していた。まだ梅乃は気が付いていない様である。
最初の言葉は、何て言おうかと、下らない事を考えながら走っていた。
梅乃も気が付いた様で、こちらに歩いて来る。
アソゲホ広場の丁度真ん中当たりで、二人は立ち止まり向かい合った。
「・・・」私は、走った性で息苦しく喋ろうとしているが、声に成らない。
「約束どおり、来てくれたのね」梅乃が、爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「こ・・これは、夢じゃないんだね」私は、息苦しさと戦いながら、思いも寄らない事葉を喋ってしまった。
「ホホホ・・・、 これも夢かもね」梅乃は、少女の様な表情を見せながら笑った。
「えっ!ほんとに?」
「うそよ、現実よ。ホホホ・・・」と、言って梅乃は本当におかしそうに笑った。
私は、現実に梅乃に逢えた事に感動して、涙が出て来た。
こんな事は、生まれて初めてであった。
「あら、どうしたの?」梅乃が、急に心配そうな表情になり、聞いた。
「貴女に逢えて嬉しいのです。だって、逢いたかったけれど、半信半疑だったから」と、正直に言った。
「そうね。確かにそうね」と、言いながら梅乃は私の涙を、自分のハンケチで拭いてくれた。その表情は、全てを包み込んでくれそうな、聖母を感じさせる大人の女性であった。
私は、思わずこの場で梅乃に抱き付きたい衝動に駆られ、次の瞬間彼女を思い切り抱きしめていた。
梅乃は驚いた様子も無く、私の眼から止め処も無く、流れ落ちる涙をハンケチで拭いていた。
梅乃の美しい横顔を見た時、彼女の眼からも涙が一滴、零れ落ちたのを私は見逃さなかった。
梅乃から離れ、彼女の顔を真っ直ぐに見てみた。
そこには、優しく、知的で、澄んだ瞳の梅乃が、眩しく微笑んでいた。
そして、これは現実のなのだと感じていた。
何故なら、梅乃を抱きしめた時、彼女の温もりを身を持って感じられたからである。
<続く>