星組『BIG FISH』観劇感想つづき。

 

1回観た記憶に基づくため、勘違いや記憶違いがあるかもしれません。

「それ、ちゃうで?」とツッコミ大歓迎です。

 

ネタバレばりばりなので、まだ知りたくない方は要注意です。

 

今回、エンディングまで触れています。

 

 

 

★極美慎(100期・研11)青年期

★茉莉那ふみ(108期・研3)少年期

 

ウィル・ブルーム

エドワード(礼真琴)とサンドラ(小桜ほのか/詩ちづる)の一人息子。

少年時代からリアリストで、父の話はホラ話だと怪しんでいる。

 

『BIG FISH』では多種多様な人間関係が描かれています。

エドワード(礼真琴)はまだ見知らぬ誰かに対してさえ、フレンドリー。

手を差し伸べ、力になります。

 

中でも、最も色濃く描かれた関係性が『父と息子』でした。

 

ウィル(茉莉那ふみ)は聡い少年。

父(礼真琴)が語る物語が壮大で面白いからこそ、ワクワクする反面、醒めたスタンスを取ります。

 

これは私の想像ですが、父が好きだからこその反発なのでしょうね。

出張がちの父が、母と己が知らぬ処で楽しそうな事も淋しかったろうし。

父がホラ吹きだとバレて、馬鹿にされないかと子供心に心配もしたかと。

 

ボーイスカウトの仲間達と一緒に、エドワードの話を聴く場のウィル(茉莉那)

父の話に夢中になる仲間に背を向け、本に目を落としています。

成人後のウィル(極美)が持ち続ける複雑な心理と繋がっています。

 

ウィルは物語でほぼ唯一、エドワードと敵対する存在として登場します。

同時に、誰よりも互いを慈しむ存在として描かれてもいる。

 

父親を嫌っているのではない。

むしろ愛しているから、反発する。

大切だから、怪しみ、疑う。

 

現実的で頭の良いウィルは、彼なりの思考回路で父を守りたいと思っています。

 

そういうウィルの複雑なようでいて、実はストレートな愛情を茉莉那ふみと極美慎が表現しています。

 

茉莉那ふみは108期生の中でも、飛び抜けて小柄。

山椒は小粒でピリリと辛い、首席入団者。

 

礼真琴より頭ひとつ小さく、極美慎の肩くらい。

サイズ感も、動きや表情、もの言いも少年。

頭が良いだけに、こまっしゃくれた面もありますが、それも含めて。

 

そして、顔が礼真琴と似て(見え)る。

茉莉那さんの素顔は、礼さんと似てません。

ですが、ウィル少年はエドワードと似ています。

 

父の奇想天外な話に(ツッコミを入れながらも)夢中になるウィル。

くりくりした瞳でエドワードを見上げるウィルは、リアルに息子。

無邪気な(だけじゃない、小生意気さもある)男の子そのもの。

 

ボーイスカウトに入る頃には、父の話は嘘だとほぼ断定してるウィル。

でも、父が嘘つきだから反発してるんじゃないんですよね。

 

嘘つきだとバレて、責められたり、馬鹿にされて、父が傷つかないか。

それを心配してるんでしょう。

 

子どもなりに、親を守りたいんですね。

エドワードとウィルの関係性は、ウィルの方が父親っぽいかも?

 

茉莉那ふみは、礼パパと楽しく歌うシーンがあります。

少年の声で、元気一杯に歌ってました。

礼パパも、包み込むようなイケボ。

 

極美慎はソロでがっつり歌う曲あり。

決して歌ウマではないものの、本人比成長中かと。

頑張りは受けとめました。

 

何より存在感が増しました、極美くん。

礼真琴と対峙して、息子として存在すること自体が…!

 

舞台技術力は、礼真琴には比ぶべくもありません。

…が、極美くん本人比では成長中。

 

劇中でエドワードとウィルが「親子だね、そっくり」と(主に外見を)指されます。

 

礼真琴と茉莉那ふみではなく、礼真琴と極美慎が。

見た目は似てませんが、掛け合いをする姿は親子だなぁ…と。

微笑ましく感じられました。

 

先日、石田ゆり子が「家族を演じる事の難易度」について触れていました。

気の置けない空気を醸し出す事はとても難しい、と。

 

礼真琴と茉莉那ふみ、そして極美慎。

舞台上で、違和感なく父と息子でした。

 

『BIG FISH』はエドワードの死では終わりません。

 

エドワードの死後、次々とホラ話に登場した人々が葬儀に訪れます。

 

父から聞いた物語の登場人物たち。

初めてだけど、よく知っている人々。

 

「身の丈3メートル」と聞いていたカール(大希颯)だけは、「あ、盛ってたな」とクスリ。

 

この葬儀の場に、ほとんど台詞はありません。

喪主であろうウィルが一人一人を迎え、挨拶を交わします。

 

父が話していた事はすべて本当だった。

しかも、それを知る事で傷つく人がいる(かもしれない)事は伏せていた。

とても思いやりがある、聡明な人だった。

 

その事実を実感し、わだかまりが溶けていく。

父を慕い、懐かしんでくれる人達と触れ合う事で癒されていく…。

 

おそらく物語で最も泣ける場の一つだと思います。

私もグググッと…。

 

静かで、穏やかな浄化。

柔らかな霧雨に洗い流されていくような。

 

そして、数年後。

 

アラバマの湖の岸辺。

ウィル(極美慎)と少年(咲園りさ)が魚釣りに挑みます。

 

「ここは、パパが初めて魚を釣ったところだよ」

「釣れた?」

「ああ。こーーーーんな大きいのが」

「えーー!」

 

両手を限界まで広げるウィル。

ひっくりして、はしゃぐ少年。

 

その姿は、かつての父・エドワードと幼いウィルのよう。

 

ここは笑うところです。

笑うところだし、心温まるところ。

…ですが、ぐぐぐ…っと来ました。

ウィルと息子の笑顔に。

 

劇場では「泣いたら視界が霞む」と思って堪えられたんですが。

台詞も聞き逃すかもしれないし、と。

家では、思わず洟かんじゃいます。

 

ホントやめて、極美慎とりさちゃん。

(褒めてます)

 

エドワードからウィル、ウィルから息子へ。

 

連綿と伝えられていくのでしょうね。

誰かを思いやる心と行動力が。

 

ウィルの息子咲園りさ/106期・研5)も可愛かった。

キラキラした瞳の美少年で。

お父さん(極美)に似てるな、なんて。

 

ファンタジーだけど、リアルな本作。

それは「父親がちょっと息子に良い恰好をしたい」気持ちから生まれたような。

 

父親は息子にとって、ヒーローなんだな。

(娘にとっても、きっとそう)

 

広い世界をめざし、辿り着いた先に見つけた幸せは、身近な人間関係だった。

そんなことを気づかせてくれる珠玉作。

 

冒険の果てに見つけた青い鳥は、自分の家にいたように。

 

ウィルと息子の冒険は、まだまだ途中ですね。

 

 

▽コードネームはチルチルミチル(それは月組)

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