2024/01/24(水)宝塚バウホールにて開幕した、月組『Golden Dead Schiele』
作・演出:熊倉飛鳥
主演:彩海せら(102期・研8)
ヒロイン:白河りり(103期・研7)
シリアスな話ですが、何度でも観たくなる中毒性のある作品です。
控えめに申し上げて「傑作」だと思います。
言葉であれこれ言い切って良いのか、迷うほどに。
ですが、言葉でなければ伝わらない事もありますよね。
己の語彙力の乏しさに苦しみつつ。
できる限り、当てはまりそうなピースを探したい。
それでは、ざっくりしたストーリー紹介。
そろそろ良いかな?…と思いまして(うずうず)
超ネタバレ三昧になります。
まっさらな状態で観たい方は、読まないで下さいね。
私の記憶違いや、解釈の相違があるかもしれず。
集中して観たけれど、記憶からこぼれていたら、ごめんなさい。
舞台には出て来ない、シエスタの余計な推測ヤウンチクも書いてます。
★始まりは『死後』
エゴン・シーレのアトリエ。
家財には布がかかっています。
部屋のそこかしこに、線描のダンサー達が。
(菜々野あり、遥稀れお、和真あさ乃、涼宮蘭奈、天つ風朱李、華羽りみ、帆華なつ海、乃々れいあ)
アルトゥール・レスラー(英かおと)が現れます。
彼は美術評論家で、エゴンのパトロン。
彼は次々と布を剥いでいきます。
布の下から現れたのは、
机とタイプライター
木製の汽車(玩具)
絵画(エゴンの代表作『死と乙女』)
そして、死の幻影(彩音星凪)
エゴンの妹・ゲルティ(澪花えりさ)が入室し、
「お兄ちゃん」
と死の幻影(彩音)に語りかけます。
ゲルティの目には、死の幻影がエゴンに見えているのですね。
下手端では、ゲルティの子ども達(八重ひめか、彩姫みみ)が汽車の玩具に気づき、はしゃいでいます。
子ども達やゲルティが去り、幻想世界へ戻るアトリエ。
線描のダンサー達が踊り狂う中、部屋の奥の布がひらかれます。
黒いスーツのエゴン・シーレ(彩海せら)
彼にとりすがるヴァリ・ノイツェル(白河りり)
この登場時のエゴンとヴァリは、エゴンの絵画がモチーフ。
線描のダンサー達も、エゴンが描いたデッサン等のポーズをとっているかと。
多種多彩ですし、どこで誰がどのポーズと言い切れないのですが。
(この場だったかすら、曖昧)
立体的でありながら、極めて絵画的。
象徴的なプロローグです。
★幼少期~少年期
エゴンの生い立ちが走馬灯のように描かれていきます。
エゴンの父親は、鉄道局の幹部。
オーストリアのトゥルン駅が、エゴンの生家です。
駅舎の上階に、家族が住む居室がありました。
この生家は2013年6月から公開が再開されたそうな。
ただ、晩秋~冬季は非公開になるようです。
駅を見下ろす、幼いエゴン(静音ほたる)とゲルティ(八重ひめか)
エゴン(静音)は夢中でスケッチ。
お兄ちゃんについて回るゲルティ(八重)
本舞台には、紳士淑女が行き交います。
人混みの中を駆け抜ける、静音エゴンと八重ゲルティ。
八重ゲルティ、あられちゃん走り(Dr.スランプ)で駆け抜ける。
可愛いけど、誰に教わった?!
人混みに紛れた静音エゴンと八重ゲルティ。
大きな駅の人混みにまぎれ、姿を消す少女って…映画『禁じられた遊び』ラストを彷彿としました。
混みあう紳士淑女がすっと左右に分かれると、成長したエゴン(彩海)とゲルティ(澪花)登場。
とはいえ、まだまだ少年少女ですが。
父・アドルフ・シーレ(大楠てら)に、誇らしげにスケッチを見せるエゴン。
その絵を火にくべた父は、エゴンにギムナジウム入学(入寮)を命じます。
ギムナジウムの制服は、『ポーの一族』でエドガー(明日海りお)とアラン(柚香光)らが着用したものと同じ。
ラスト、転校生としてやって来た場面です。
これ、彩海ファンの友人が教えてくれました。
ありがとう、ありがとう。
…で、ギムナジウムに放り込まれ、殴る蹴るのイジメを受ける彩海エゴン。
エドガー明日海も、ブラックプールの学校で足蹴にされてた…!
めっちゃ反撃してたけど。
やがて父が亡くなり、叔父レオポルド・ツィハツェック(佳城葵)が後見人に。
エゴンは美術アカデミーに入学します。
★アンチ・アカデミー
ウィーン美術アカデミーは多くの才能を輩出した難関と知られています。
同時に、アドルフ・ヒトラーが落ちた学校としても有名。
ヒトラーが落ちた時の合格者の一人がエゴンでした。
ヒトラーが憧れてやまなかったアカデミーに、楽々合格したエゴン。
ところが、アカデミーを「古臭い。学ぶ事などない」と一蹴。
叔父に内緒で、退学してしまいます。
(ヒトラーが聞いたら、泣くよ…?)
芸術家仲間と「新芸術家集団」を結成。
画家のアントン(瑠皇りあ)、マックス(七城雅)
パフォーマーのドム・オーゼン(月乃だい亜)
タヒチから来たダンサーのモア(羽音みか)
12月に画廊を借りて、展覧会を開催しよう!と盛り上がります。
ところが、場所の借り賃が高い。
叔父を当てにするエゴン。
ですが、アカデミー退学がバレ、叔父は激オコ。
資金難のエゴンは、尊敬する画家グスタフ・クリムト(夢奈瑠音)を訪ねます。
クリムトのアトリエで、彼のモデル・ヴァリ(白河りり)と出会います。
エゴンの絵を見た事がある、と言う白河ヴァリ。
「グスタフの絵と似てるけど、淋しい感じがした」
クリムトはエゴンの窮状を知り、彼が持ってきた素描を買い取ります。
展覧会は惨憺たる評価。
エゴンはタブー視されがちなテーマ(死や性行為など)に精力的に取り組んだからです。
当時の世間から理解を得られず。
仲間からも「一人で突っ走り過ぎ」を指摘される。
エゴンは田舎へ引っ込み、独自の活動を行うことに。
★クリムトからの贈り物
仲間と袂を分かち、ウィーン近郊のノイレンバッハで独自の創作活動に励むエゴン。
叔父から援助を断たれ、経済的に窮し、モデルは近隣の子どもたち。
夢奈クリムトはエゴンへ贈り物を派遣。
それはモデル(白河ヴァリ)
モデル料金は、クリムト持ち。
「子どもをモデルにしない方がいい」との考えから、エゴンを慮ってのこと。
「君を描くのはこわい」
「こわい?」
「僕の心を見透かされてるようで」
エゴンの絵を初見で、「淋しい感じがする」と読み取ったヴァリ。
「たまたまよ」とヴァリ。
幼少期に教師だった父を亡くし、母子家庭で育ったヴァリ。
その母も昨年亡くし、職を求めてウィーンへ出て来るも、職に就けず。
窮したヴァリを、クリムトがモデルとして雇用してくれた…と身の上話。
同じく少年期に父を亡くした事もあり、ヴァリに興味をもつエゴン。
「今日は帰るけど、また来るわ」とヴァリ。
「必ず来てくれるね?」
ヴァリの再訪を待ち望むエゴン。
「暗いから、送るよ」
エゴンは帰り道でもう少し、ヴァリと話したかったのかな。
★冤罪
やがてエゴンはヴァリを描き、二人は共に暮らすように。
近隣の人々は、正式な結婚をせず同棲する二人を白眼視。
ある激しい雨の夜、
「この世の中に、僕たち二人だけみたいだ」
二人の世界に浸るエゴンとヴァリの元へ、第三の女が闖入。
父親に折檻され、逃げてきた少女タチアナ(彩姫みみ)
エゴンに救援を求めます。
「今夜は泊めて、翌朝警察に」とエゴン。
「警察は元海軍の父の味方。家に戻される!」とタチアナ。
「私達は信用がない…」と軽はずみな判断を懸念するヴァリ。
ヴァリの心配が的中し、エゴンは少女誘拐の嫌疑をかけられ、逮捕。
レスラーやクリムト、画家仲間に協力を求めるヴァリ。
しかし、「今回は無理だ」と見捨てられてしまう。
警察にかけあい、拘留中の製作許可を得たヴァリ。
エゴンに画材を差し入れ、励ます。
「あなたがいつも使ってる紙と鉛筆と同じものよ」
「必ずそこから出すから、待っていて」
しかし、援助者がいないエゴンの拘留は延長。
冤罪をかけられたエゴンは絶望する。
以上が一幕(1時間5分)
★身分違い
2幕はパーティ(舞踏会)からスタート。
一旦は手を引いた英レスラーが手を尽くし、解放されたエゴン。
エゴンもパーティに参加。
アデーレ(菜々野あり)とエディト(花妃舞音)のハルムス姉妹と出会う。
エゴンのファンだとはしゃぐ姉妹。
しかし、ハルムス夫人(梨花ますみ)に「娘たちに近づくな」と釘を刺される。
エゴンは、英レスラーに八つ当たり。
「君がもっと早く助けてくれれば、こんな事にならなかった」
「ヴァリだけが僕を信じ、寄り添ってくれた」
レスラーが去ると、ハルムス姉妹が再登場。
母の非礼を詫びる姉妹。
彼女達の父親も鉄道局勤務だった。
しかも、通りを挟んで向かいに居住。
エゴンとヴァリをお茶に誘う姉妹。
それをヴァリに伝えるエゴン。
「ウィーンに戻ってから元気がないから、良かった」
姉妹とエゴンの交流を喜びつつ、お茶は辞退。
「私は華やかな場には出られない」
「なぜ? 君は綺麗だ」
ヴァリを誇りたい。
大事な人として他者へ紹介したい、と望むエゴン。
身分違いの己は歓迎されない、とヴァリ。
★結婚式
瑠皇アントンと澪花ゲルティの結婚式。
アントンはゲルティと結婚する為、画家を廃業し、軍に入隊。
幸せそうな二人に対し、エゴンは不機嫌。
エゴンの母・マリー・シーレ(桃歌雪)にヴァリを紹介。
だが、返って来る言葉はヴァリへの差別発言。
更に「エゴンも画家をやめ、軍隊へ」入るよう勧める
母を突き飛ばすエゴン。
助け起こそうとするヴァリを、鋭く拒否するマリー桃歌
アントンと取っ組み合いを始めるエゴン。
「今日は二人の結婚式なのに、おめでとうも言ってない」
とエゴンを諫めるヴァリ。
世間体のため、本当にしたい事を諦めること。
気持ちを、形式的な枠にはめること。
どちらも、エゴンにとって「そんなの、おかしい」事なのでしょうね。
★分岐点
「愛していれば、一緒にいられれば、形式は問わない」エゴン。
「身分違いだから、私と結婚できないのでしょう」とヴァリ。
「違う、誤解だ」
「私たち、離れた方が良いのかもしれない」
駆け去るヴァリ。
なす術もなく、立ち尽くすエゴン。
★ハルムス家の茶会
一人でハルムス家の茶会へ出席するエゴン。
エゴンが鉄道局幹部の子息だったと知り、手の平を返すハルムス夫人。
「ただの貧乏画家と思っていた」
「娘たちは、あなたに夢中」
芸術が尊重されるオーストリア。
芸術家は徴兵されない筈なのに、エゴンに召集令状が。
既婚者は駐屯地に妻子を呼び寄せる事が可能。
ただし、交通費や宿泊費要は自腹。
ハルムス夫人は、エゴンに娘のどちらかと婚姻すれば、それらの費用を賄うと申し出る。
★独り立ち
一方、白河ヴァリと夢奈クリムトの再会。
淡々と、エゴンとの同棲解消を告げるヴァリ。
「帰って来るかい?」とクリムト。
「何も聞かないのね」
「君たちが決めた事なら」
ヴァリを娘のように思っている、とクリムト。
「戻るなら、アトリエに君の居場所をつくろう」
「ありがとう。でも、一人で生きてみる」とヴァリ。
「最後に一つだけ聞かせて」
「どうして、私をエゴンの元へ行かせたの?」
「なぜ知りたいんだい?」とクリムト。
「ただ、聞きたいの」とヴァリ。
「君の飾らないところが、エゴンに合ってると思ったんだよ」
社会がもっと寛容だったら、エゴンとヴァリは繋がっていられたかもしれませんね。
★紙とえんぴつ
駐屯地で軍役に就いたエゴン。
宿舎に帰ると、エディト(花妃)が抱きついて迎える。
「紙と鉛筆は?」
「買ってきたわよ」
「これじゃない。紙の材質も、鉛筆の芯の硬さも」
「どれも同じじゃない」と不服なエディト。
「絵を描くのは止めたはずよ」
「絵ばっかり描いて…」
…と、宿舎でのエゴンの過ごし方に不満爆発のエディト花妃。
「交換してくる」と背を向けるエゴン。
「あの女と比べるのはやめて!」
常に白河ヴァリの影を感じているのでしょう。
エディト花妃、つらいですね。
★戦場からの手紙
そんな中、ヴァリからエゴンへ手紙が届きました。
従軍看護婦として戦地へ赴いたこと。
非常に過酷な情況であること。
エゴンも徴兵されたと知ったこと。
戦地で、いつか会えるかもしれないと思ったこと。
「あなたにもう一度、会いたい」
そういった飾らない気持ちが書かれた手紙でした。
★死と乙女
ヴァリが戦地で亡くなった事を知ったエゴン。
己が彼女を死地へと追いやった。
己こそが『死』だ。
エゴンは思いの丈を、絵にぶつける。
ヴァリを喪った深い悔恨と、「もう一度会いたい」熱望を抱えて。
そうして描き上げた『死と乙女』
ウィーン分離派展で発表し、激賞されます。
死の幻影(彩音星凪)は、幼い頃からエゴンに巣食う恐怖。
同時にそれは、エゴン自身でもありました。
冒頭でゲルティが死の幻影に「お兄ちゃん」と語りかけたのは、伏線だったんですね。
線描のダンサーに囲まれ、赤い布に囲まれるエゴン。
やがて、消えていくダンサー達。
最後、一人残ったエゴンは背を向け、溶暗にとけていく。
★RED
プロローグを筆頭に、各所でエゴンは『死』と対峙します。
死の幻影(彩音星凪)は黒。
線描のダンサーは土や草が混ざったような色。
エゴンも白いシャツに黒いスーツなど、無彩色。
場によっては、紳士や淑女も雪崩れ込んできます。
彼や彼女は黒いフォーマルスーツに淡い色のドレス。
その中で、ヴァリだけは真紅のドレス姿。
赤は、第一チャクラの色とされています。
サンスクリット語でチャクラは「円盤」「車輪」
生命エネルギーの循環を意味するのでしょう。
第一チャクラは身体の基底部にあり、原始的な『生と死』を司るそうな。
「闘争」「たくましく生き抜く」といった意味もあります、
ヴァリ、そして線描ダンサーズが広げる赤い布は、象徴的かつ重要なテーマカラーのひとつかと。
また、エゴンとヴァリはそれぞれ、戦場へ赴きます。
血が流れるイメージが想像できます。
(史実では、エゴンは後方勤務に従事)
(実戦参加はなかったそうですが)
加えて、エゴンとヴァリの登場シーン。
あれはエゴンの作品『恋人たち』を再現したポーズ。
男性に取りすがる女性は、赤い服を身にまとっています。
二重、三重に象徴的な『赤』なんですね。
★運命の人
エディト(花妃)は、エゴン(彩海)との出会いを「運命的」「運命を感じた」と表現しています。
ヴァリ(白河)は、逆にエゴンを「運命の人」と呼んだ事は…なかったような。
観終わって感じるのは、エゴンとヴァリは互いに運命の相手だということ。
史実どうこうは置いといて、熊倉先生が描いた作品世界では。
(史実もおそらく、そうじゃないかと)
エディトが「運命」とはしゃぐたび、その軽さ、空虚さが切なくて。
逆説的なセリフの効果的な使い方…と申しましょうか。
★鉄道
エゴン・シーレは両親や叔父から、鉄道員をめざすよう、幼い頃から叱咤されます。
題材セレクトの時点で、阪急電鉄を意識したのでしょうか、熊倉先生。
さりげなく、凄いマッチングですね。
▽ 以上、ざっくり解説でした