2023年5月4日(木)宝塚バウホールにて花組『舞姫』を観劇しました。

 

5月3日(水)が初日で、5月14日(日)が千秋楽。

バウ公演は短いよね…箱もコンパクトですし。

 

GW期間なので、多くの方にとって休日が多い日程。

観やすい日程でしょうか。

それとも、家族と過ごすため出にくい期間かな。

 

『舞姫』は花組にて、2007年6月バウホール初演。

2008年3月、日本青年館で東上公演として再演。

 

原作:森鷗外

脚色・演出:植田景子

主演:愛音羽麗(83期・当時研11)

ヒロイン:野々すみ花(91期・当時研3)

 

初演版は未見でした。

2023年版を観てから、映像で初演版を視聴。

聖乃バージョンが私にとって『舞姫』の初見であり、基本です。

 

それでは、キャスト別感想へまいりましょう。

いろいろ目が眩んでるので、グルグルしてたらごめんなさい。

 

ネタバレしてますので、まだ知りたくない方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

聖乃あすか(100期・研10)

 

太田豊太郎

陸軍所属で法律を学ぶ国費留学生

 

白軍服がおっそろしく似合う聖乃さん。

劇場で観れなくても、配信またはプログラムをご覧あれ。

 

聖乃さんは下級生時代、中性的なほわほわ美少年でした。

ある時期から、骨太系を目指すように。


2022年『冬霞の巴里』でアナーキストを演じ、一皮剥けました。

 

舞姫では、凛々しさと苦悩を抱えたエリート青年を熱演。


揺らめく心情を、良い意味でわかりづらく表現。

(通常に比べるとストレートに感情表現をしない、という意味)

 

例えば、嬉しいはずなのに困惑した表情を見せたり。

…で、あとから一瞬よろこびを覗かせたり。

明治の男性を研究したのかな。

 

国費留学生として渡欧した豊太郎。

東京帝大を首席卒業し、陸軍に在籍。

日本の発展を目指し、欧米の法律を学ばんとする若きエリートです。

 

現地の貧しい踊り子・エリス(美羽愛)と出会った豊太郎。

エリスとの真剣交際を咎められ、命じられた帰国を拒否します。

罷免され、国からの支給はストップ。

 

エリスが母親と暮らす家に起居することに。

親友・相沢謙吉(帆純まひろ)の紹介で新聞記事を翻訳し、糊口をしのぎます。

 

エリスが豊太郎にもたれかかり、本を読む場が印象的。

たどたどしくエリスが文字を読み上げる処です。

背中越しに豊太郎が見守りながら。

 

つっかえながらも読み通したエリス。

誇らしげに豊太郎を見上げ、宣言します。

日本語もマスターすると。

 

日本語は無理だろう、と苦笑する豊太郎。

努力する、豊太郎の事をもっと知りたいから、とエリス。

 

エリスのいじらしさと、豊太郎の包容力が溢れて来るシーン。

エリスの生い立ちや生活が伺い知れる場でもあります。

 

ささやかな幸せを噛みしめながらも、揺れる豊太郎の心。

 

豊太郎を何とか助けたい、親友・相沢謙吉(帆純まひろ)

国家建設の為、優秀な豊太郎を必要とする総理候補・天方伯爵(一樹千尋)

祖国を懐かしみ、衰弱死した私費留学生・馳芳次郎(侑輝大弥)

豊太郎を戒めんと命を絶った母・倫(美風舞良)

豊太郎を待ち続ける妹・清(詩希すみれ)

 

様々な人の想いを受けとめ、帰国へと心が傾く豊太郎。

 

相沢謙吉(帆純)から豊太郎の帰国を聞き、手切れ金を渡されたエリス。

ショックのあまり流産し、パラノイア発症。

 

初演版では「純粋すぎるエリスは元々、心の病を抱えており、妊娠は妄想」

それゆえか、エリスの母は豊太郎を責めず。

豊太郎を免責する設定になっていた印象。

 

2023年版では、エリスの母から責められ、なじられます。

謝罪する相沢に、「責任は己にある」と豊太郎。

初演版より、原作により近づいています。

 

原作では「相沢の友情とわかっていても、恨む気持ちがある」と吐露する豊太郎。

 

誰かのせいにせねば堪え難い、背負い切れぬ罪悪感。

 

夏目漱石の『こころ』に登場する「先生」は罪悪感を抱え続け、死を選びました。

 

原作の豊太郎は理不尽とわかりながら、親友を逆恨みする事で心の負荷を軽減した。

己のずるさ、弱さを自覚しながら、生き続けた豊太郎。

 

その醜悪な心理を認めた最後の一文に、人間の生々しさが凝縮されています。

 

(原作の)豊太郎の逆恨みの対象は、相沢に代表される「社会構造」なのでしょう。

 

相沢個人へ向けた恨みなら、逆恨みかもしれません。

ですが、社会構造が相手なら、それは問題提起に変貌します。

 

美しい悲恋物語におわらせず、醜悪な人間心理に目を向け、社会批判へと繋げる可能性とリスクを内包した『舞姫』

 

そこまで、宝塚で描くことは難しいと思います。

 

観客のニーズも考慮し、初演版は悲恋をクローズアップしたのかと。

豊太郎の罪深さを薄めた配慮も、その為かと。

 

再演にあたり、原作の設定にかなり近づけた『舞姫』

それは演出家と役者、双方にとって大きな挑戦だと思います。

 

聖乃は相当な覚悟と研究で、この挑戦に臨んだことでしょう。

観劇していて、そう感じました。

 

いっそ、原作通りの豊太郎を観てみたい。

大きな賭けではあるけれど。

 

そう思わせる豊太郎であり、『舞姫』でした。

 

2022年、役の振り幅を広げた聖乃あすか。

2023年は、役をさらに掘り下げていきそうです。

 

 

∇キャスト別感想つづきます

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