星組『エル・アルコン-鷹-』キャスト別感想です。
 
11月20日(金)15時の部、21日(土)11時半の部を観劇。
初日と、明けて2回目を観ました。
 
ネタバレを含みますので、まだ知りたくない方は読まれない方が良いかと思います。
 
しかも気がつけば、自己流の分析が止まらず。
どうしたものか…(⌒-⌒; )
 
 
 
 
 
 
★礼真琴 95期・研12
 
ティリアン・パーシモン役。
英国海軍の将校だが、無敵艦隊と呼ばれたスペイン海軍に憧れ、祖国を裏切ります。
 
スペイン貴族の血を引く、母・イザベラ(万里柚美)
母子ともに、スペイン人のジェラード・ペルー(綺城あか理)と親交がありました。
 
そのため、父(桃堂純)に不義の子と疑われ、虐待されて育った少年ティリアン(二篠華)
 
父の死後、母はパーシモン卿(朱紫令真)と再婚。
 
パーシモン卿は愛人を複数囲う艶福家。
海軍での義理の息子ティリアンのスピード出世に鼻高々な反面、「スペイン人め」と毒づきます。
 
病床に臥す母は、ティリアンを通してジェラードの面影を追う、永遠の乙女。
 
礼真琴が演じるティリアンは、常に無表情…に見えますが、そうでもないような。
 
およそ常に半目状態で、表情(本心や心の動き)を押し隠しているような。
伏せがちな瞳は、鬱屈を秘めています。
 
私の見間違いでなければ、初日のアイメイクはブラウン系に見えました。
3階の後ろだった事と、照明の効果でそう見えたのかな?
 
2日目は同じ3階でも前方だったからか、パープル系のアイメイクだと判りました。
紫色のアイメイクは衣装とも、陰鬱な顔つきとも、マッチしていました。
 
初日は不機嫌そうに見えていたティリアン。
2日目は苦悩しているように感じました。
 
礼真琴の演技が変化したのか?
 
(それはあると思う)
(初日も2日目も神経を研ぎ澄まして演技していたから)
(細かな調節をしているように感じました)
 
観ている私の感受性の問題か?
 
(これもあると思う)
(初日は、舞台全体の把握に必死でしたから)
(2日目は、観察モードON)
 
ティリアンは底が細かい網になっている器のような人。
緻密な網なので、一見すると強固な底があるように見えます。
 
ですが、どれだけ水を注いでも、気が付けば空っぽ。
確実に水は流失してしまう。
 
水に混じった不純物だけが、網に引っ掛かり、沈殿していく。
沈殿が厚みを増すことで、周囲はもちろん、ティリアン自身にも己の空洞に気づけない。
 
…いえ、ニコラス(咲城けい)は気づいていたかもしれません。
 
常に側に付き従い、忠実であり続けることで、ティリアンを支えたニコラス。
ニコラスの存在は、ティリアンにとって唯一、信じられたことでしょう。
 
ティリアンは孤独でした。
実父に不義の子と疑われ、養父やいじめっ子にもスペイン人と毒づかれ。
母は我が子を通して、別の男の面影を追う始末。
 
誰も、ティリアン自身を見てくれず、愛してくれない。
 
その中で、幼いティリアンを肯定してくれたジェラードは、半ば神格化されたヒーロー。
彼の故郷スペインや、彼から聞いた無敵艦隊の話は、幼い心に刻み込まれ、憧れであり、救いでもあったことでしょう。
 
「スペインにさえ行けば」
 
己は異邦人ではなくなる。
本来の場所に戻れる。
 
そうすれば、空虚や孤独から逃れられる。
救われる。
 
スペインにさえ行けば、全てが解決すると…心の支えにしてきたのかな。
 
幼いティリアンにとって、スペインはネバーランドであり、パライソであり、「ここではない、どこか」だったのでしょうか。
 
成人したティリアンは、さすがにそこまで期待していなかった様子。
 
海賊(愛月、天飛ほか)に襲われ、絶体絶命のティリアンを助けに来てくれたスペイン海軍。
 
その姿を認めた瞬間、ティリアンは初めて目を大きく見開き、喜びが瞳と口元に浮かびます。
 
しかし、すぐに喜色を消すティリアン。
スペイン海軍の面々の姿が見えた瞬間、彼は沈鬱な無表情に戻ります。
 
これ、不思議ですよね?
 
味方が現れたんですよ?
ずっと憧れていたスペイン海軍が現れたんですよ?
助けると宣言してくれたんですよ?
 
この不可解な表情の変化は、ティリアン自身が「己を騙し騙し、生きてきた」自覚がありつつ、そこから目を背けていたのかな…と、推察させてくれます。
 
それでも、そうしなければ生きて来れなかった。
 
ティリアンの深い心の傷を思わせてくれます…。
 
実際、スペイン海軍に編成後は、イギリス野郎と陰口を叩かれることに。
国が変わっただけで、同じ事の繰り返しです。
 
ティリアンが真に望んだ場所は、大海原。
 
そこへ行き、留まるために必要な、旗艦と自由を手に入れるため、権力を求めたのでしょう。
 
海という過酷な環境で生きる為には、協力し合わねばなりません。
 
ティリアンの孤独な魂は、海で得られる強固な絆を、無意識に求めたのかもしれません。
 
その絆を永遠にするため、彼にはエル・アルコンが必要だったのでしょう。
 
ティリアンは優秀ですが、彼の急速な出世はそれだけが理由ではない。
確固たる目的意識があってこそ。
 
目的に集中し、邁進することで、辛い現実から目を逸らし、心身の痛みを麻痺させてきたのでしょう。
 
ティリアン自身が心底求めたものは、実はすでに手に入っていたのでは…と思います。
 
海へ出なくても、旗艦エル・アルコンがなくても。
 
例えば、ティリアンが少尉時代に助けたニコラス(咲城けい)の存在と絆がそうです。
 
ティリアンの人間性を描くなら、ニコラスとの出会いを取り上げたら良いと思うんですけどね。
 
単なるダーティヒーローではなく、人間的な深みに説得力を持たせられたと思います。
 
ルミナス(愛月)や、ヒロイン格のギルダ(舞空)とのエピソードが優先されるのは、宝塚で上演する以上、そして充分な時間がとれない以上、致し方ないことですが。
 
本作は、ティリアンを魅力的に描く上で、極めて難しい脚本です。
本作初演を観て、己のFirst Photo Book でも扮装写真の題材とした礼真琴。
 
プログラムに掲載された安蘭けいのティリアンは美しく、色香に溢れ、魅惑的です。
写真だけでも、その魅力が伝わってくるのですから。
生の舞台では、どれほどの威力を発揮したことでしょうか。
 
シリーズ物の長い物語を、1時間半ちょいにまとめる事は非常に困難です。
原作を知らない人には、話がわかりづらくなるリスクがあります。
逆に原作を知っていると、早送りのダイジェスト版に感じられます。
 
主人公が白系なら、話をわかりやすく展開できる可能性はあります。
 
しかし、黒系となると、非常に難しい。
ビジュアルのカッコよさで押すなど、いくつかやりようはありそうですが、礼真琴はそんな小手先の誤魔化しを、己に許すはずもなく。
 
初演の安蘭けいと同じく、表現力(歌唱力、演技力)で乗り越えようとしている事でしょう。
 
実際、寝転がっているだけでも、光除けに手を目にかざす様子など、こだわって創り上げているように感じました。
 
登場した瞬間から、ピリピリした緊張感がみなぎっていました。
 
それは、ティリアンという人物には必要な空気だろうとも思います。
 
おそらく、礼真琴のティリアンは千秋楽まで変化し続けるのでは…と思います。
 
簡単に己に満足しない、ストイックさを感じます。
 
そんな礼真琴だからこそ、ティリアンを演じられるのだとも思います。
 
 
余談ですが、ティリアンの姿を描いた肖像画は、エーベルバッハ家に伝わっていきます。
『紫を着る男』と呼ばれて。
(青池保子著『エロイカより愛をこめて』より)
 
そういった事まで踏まえて、礼真琴はメイクで紫色を選んだのでしょうか?
それとも、無意識?
 
…だとしたら、ティリアンに呼ばれたんですね。
 
 
★天飛華音 102期・研5
 
キャプテン・ブラック役。
ティリアン(礼真琴)に復讐を誓うルミナス(愛月ひかる)をサポートする海賊。
原作では、英国海賊の「影の首領」と呼ばれる人物。
 
星組は私にとって、最も縁遠い組でした。
全組観劇派ですが、他の組に比べたら、断トツで観劇回数は少ないです。
 
…それが近年、本公演と新人公演とも、「必ず観たい組」になっています。
 
その立役者が、礼真琴(95期・研12)と天飛華音(102期・研5)
 
天飛くんを初めて認識したのは、2018年5月15日『Another World』新人公演にて。
徳三郎(本役:礼真琴)が登場してしばらく、
 
「なななななんで、礼真琴が新公に出てるの?!」
 
…と混乱するほど、発声・発語・動作・間合い・仕草など、本役そっくり。
歌唱も芝居も達者で、声がよく伸びる。
本公演では礼徳三郎にくぎ付けでしたが、新人公演でも天飛徳三郎から目が離せず。
 
本公演のショーで見つけると、踊りも達者。
身体の動きがしなやか。
振り返るだけでも、ふわっとしていて。
関節がないのか?…と思えるほどスムーズ。
それでいて、力強さはある。
 
男臭い男役なのに、踊るとしなやか…って、縣千(雪組101期・研6)とも通じるのかな。
 
「まだ新公学年とは思えない貫禄」という点では、風間柚乃(月組100期・研7)を彷彿とします。
 
『食聖』では、新人公演で初主演。(2019年当時、研4)
東京新公は、開演早々マイクトラブルに遭遇。
動じず、地声で舞台を続けた度胸の持ち主。
(相手役の舞空瞳が、己のマイクで声を拾えるよう、ナイス・アシストも)
 
そんな大物ルーキー天飛くんは、キャプテン・ブラックに抜擢されました。
 
キャプテン・レッド(愛月ひかる/93期・研14)の盟友で、顔に傷がある THE 海賊な風体。
海賊歴はブラックの方が先輩ですが、レッドの人柄を見込み、リーダーと仰ぐようになります。
 
物語後半は舞台上にいる時間も長く、目立つ役。
初演の新人公演では、真風涼帆(92期・当時研2)が務めました。
 
愛月ひかるとは9学年離れています。
(すみれコードに抵触しますが…中卒一発合格組なので、年齢も9歳差)
 
研14の愛月さんが、爽やかな好青年を。
研5の天飛くんが、キャリアを積んだ海賊を、それぞれ演じています。
 
二人ともハマっていて、違和感なし。
 
生まれも育ちも違いますが、レッド愛月とブラック天飛は、真っ直ぐな人間性と懐の深さを感じる人物。
 
「個性の違い」と「人間性の類似性」を感じさせ、コンビネーションの良さも伝わってくる。
 
愛ちゃんも、天飛くんも、良い役者さんですね。
それ以前に、それぞれの人間性が滲み出て、プラスに作用してるのかな?…と感じました。
 
本作では残念ながら、主演の礼真琴とあまり絡みがありません。
ガッツリ組んだ芝居を観てみたい気がします。
 
先ほど「『Another World』新公では本役(礼真琴)に寄せまくり、そっくりだった」と書きましたが、それって凄いこと。
 
琴ちゃんに似せたくても、似せられる人なんて、そうそういないでしょう。
それをやってのけた天飛華音(当時研3)
それだけで、ポテンシャルの高さがわかろうものです。
 
礼真琴本人とぶつかり合った時、どんな個性を、才能の煌めきを見せてくれるのか。
 
似ているようで、全く違うに相違ありません。
 
 
▽個別感想、続きます。

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