この週末は、大阪梅田シアタードラマシティにて雪組『ハリウッド・ゴシップ』を観てきました。
 
以下の感想とレポートはネタバレを含みます。
 
本作は 1920年代のハリウッドが舞台。
大正末期から昭和初期にあたります。
サイレント(無音)からトーキー(音声あり)へと映画の撮影手法がが変わりゆく時期。
 
映画スターを夢見るエキストラの青年コンラッド・ウォーカー(彩風咲奈)
これを最後と決めてトーキー映画のオーディションに挑むも、ろくにカメラテストもせず、追い出されてしまいます。
 
形ばかりのオーディションは、映画プロデューサーのハワード・アスター(夏美よう)が仕掛けた話題作り。
主演はジェリー・クロフォード(彩凪翔)に決定済。
 
抗議に向かった彩風コンラッドはハワードに軽くあしらわれます。
そこで出会った 往年の大女優アマンダ・マーグレット(梨花ますみ)
彼女から「映画スターに育ててあげよう」と声をかけられます。
 
彼女の狙いは、彩凪ジェリーへの復讐と銀幕への復帰。
 
彩凪ジェリーは野心家。
梨花アマンダを色仕掛けで籠絡し、彼女を足掛かりにしてのし上がりました。
 
いまや映画界から締め出されたアマンダは、コンラッドを利用して一発逆転を狙います。
 
自信なさげで垢抜けない青年だったコンラッドは、洗練されたクラブダンサーに変身。
有閑マダム相手にダンスの相手をして、引っ張りだこに。
 
アマンダが新解釈の『サロメ』を売り込み、夏美ハワードに採用されます。
主役こそ彩凪ジェリーですが、共演者として彩風コンラッドをねじ込む事に成功。
 
ヒロインは彩凪ジェリーが見出した新人女優エステラ・バーンズ(潤花)
彼女はダウンタウンの寂れたダイナーでウェイトレスをしていました。
 
サロメの撮影が始まるが、彩凪ジェリーは台詞を覚えられず、注意散漫。
NGばかりで撮影が進みません。
 
彩凪ジェリーはコカイン漬けが発覚。
錯乱し、入院。
 
夏美ハワードは、彩風コンラッドの務めていた役を主人公に変更して撮影続行を決断。
梨花アマンダに脚本変更を依頼し、彼女の銀幕復帰の企画を、彩風コンラッドを通じて打診します。
 
夏美ハワードからの伝言を、梨花アマンダに伝えます。
背を向けたまま、その言葉を受け止める梨花アマンダ。
 
彩風コンラッドは己の想いも告げます。
「これ以上、ジェリーを追い込むのは止めてくれ」と。
 
梨花アマンダは、花束を抱えて愛の言葉を囁いたジェリーに見事に騙されたと毒づきます。
 
彩風コンラッドは梨花アマンダに近づき、背中越しに抱きしめます。
 
「彼を今でも愛しているんでしょう?」
 
彩風コンラッドに抱きしめられ、静かに落涙する梨花アマンダ。
 
愛されない哀しみ。
利用された悔しさ。
己は本気になったがゆえの惨めさ。
 
愛しているから許せない。
愛しているから憎い。
愛しているから苦しい。
 
おそらく人間が出来た人は「それは愛ではなく、執着だ」というでしょう。
 
そう、おそらくそれは愛ではない。
変質した、かつて愛だったものでしょう。
 
執着と愛は似て非なるものです。
アマンダの愛は、執着へと変化を遂げていました。
 
…であればこそ、それは愛だと言ってほしい。
愛しているから憎むのだと、嘘でもいいから認めてほしい。
 
傷ついた自尊心を回復するため、復讐を選んだアマンダ。
 
その切ない胸の内を察してくれたコンラッドの愛こそが、傷ついた彼女を癒してくれた事と思いたい。
 
ハリウッド・ゴシップは宝塚作品だから無理なんですが、アマンダを主人公にしたら、味わい深い傑作になった事と思います。
 
ラスト近くのコンラッドとアマンダ、二人の場面は秀逸。
 
虚勢を張り続ける梨花ますみの往年の大女優がほろりと見せる乙女心、その純情と切なさ。
 
そんな彼女の傷ついた心を推し測り、背中越しに抱きしめる彩風咲奈の純朴な包容力。
 
ハリウッド・ゴシップに登場する人間は、大きく二つに分かれます。
 
他人を利用する事ばかり考え、利用価値の有無で判断する人間。
 
人の気持ちを尊重し、大切にできる人間。
 
後者は、潤花エステラが働くダイナーの無愛想な女将さん(早花まこ)に代表されます。
 
彩風コンラッドが、ジェリーへの攻撃を止めるよう進言したのは、おそらくジェリーの為ではありません。
 
ジェリーへの復讐によって、梨花アマンダが己を傷つけている…そう感じたからでしょう。
 
奥深い人間心理を題材にしながら、主人公をコンラッドにした事で深く掘り下げ切れなかったのではないか、と思います。
 
せめてジェリーが主人公なら、栄光と挫折、愛憎と恩讐など、興味深い要素を詰め込めたでしょうに。
 
なかなか難しいところですよね。
宝塚として制作する作品は、何かと制約が多そうですし。
 
個人的に、彩風咲奈が演じるコンラッドは好感を持ちました。
作品自体も、決して嫌いではありません。
 
ただ、話をより面白くするなら、ジェリーかアマンダを主人公にした方が描きやすかったろうと思います。
 
フィナーレは非常に素晴らしい。
このフィナーレの為だけに通いたいと思ったほど。
 
フィナーレの何が凄いって、多くの方がすでに触れてますし、ご存知の方も多いと思いますが。
 
男女のデュエットダンス群舞で、彩凪翔と縣千だけが男役同士で組んで踊ります。
 
翔ちゃんも、縣くんも、めちゃくちゃ色っぽい。
 
男役同士だから、ダイナミックさもあり、シャープ。
それでいて、余韻もしっかりある。
 
男役同士でタンゴを踊る…といえば、『ジェラシー』を思い出します。
そういえば『ジェラシー』は、お芝居の中でBGMとして流れました。
 
縣くんが片手で翔ちゃんをリフトし、クルクル回る姿は男らしさに驚き。
 
翔ちゃんが縣くんをホールドする姿に、また驚き。
 
この二人だけを映したバージョンも入れて、ブルーレイ販売してほしい。
(アングル違いのやつですね)
 
その後、彩風咲奈を筆頭に迎えた黒燕尾の男役群舞も、とても素敵でした。
 
ただ、彩凪翔と縣千の男役デュエットの印象が強烈すぎました。
いやホント、ええもん見せてもらいました。
 
ラストは、彩風咲奈と潤花のデュエットダンス。
ディズニー風の可愛らしいものでした。
明日海りおと華優希のシャルム!でのデュエダンのロングバージョンみたいな感じかな?
 
ほぼ、二人で並んで同じ振付を舞っている感じでしたが、お芝居めいた要素もあり、観ていてハッピー。
ヒラヒラ舞う二羽の蝶のような、愛らしいデュエットダンスでした。
 
 
▽助演女優賞は早花まこ様

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