10月15日(日)赤坂ACTシアターにて、花組『ハンナのお花屋さん』を観てきました。

結論から言うと……胸を打たれました。

私にとって、観るべき舞台。
ちょっと、これは…私の人生の振り返りに必要な作品でした。

植田景子先生、明日海さんはじめ花組生の皆さん、宝塚歌劇団さま、花組プロデューサーさん、関係者の皆様、本当にありがとうございました。

正直に告白すると、期待値を低め設定で臨みました。
それが、蓋を開けてみたら……裏切られました、良い意味で。

『はいからさんが通る』のように、誰が観てもわかりやすく、面白い作品とは言えないかもしれません。
ですが、人の心の深奥を揺さぶり、様々な記憶や経験を呼び覚まし、浄化する作用があると感じました。

明日海りおトップ時代のオリジナル作品では、上田久美子先生の『金色の砂漠』と並び、双璧となるかもしれません。

後からジワジワ効いてくる、まさに点滴のような珠玉作です。

おそらく、生きてる時間が長くなるほど、共感できること、沁みてくる事が多い作品でしょう。

正直、期待してなかっただけに驚きました。
こんなに心を洗われ、心をさらわれ、心に沁み入るなんて…。

クリス・ヨハンソンは、明日海りおが演じてきた中で、一番好きな男性かもしれません。

本作は、クリス(明日海)という青年を主軸に、群像劇としての側面をもっています。

ここから先は、ネタバレが出てきますので、まだ知りたくない方は読まれませんよう。
何も知らずに観た方が良いように思いますし。


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デンマークの名門貴族・アベル(芹香斗亜)の庶子として生まれ育ったクリス(明日海りお)

…あ、庶子は「婚外子」「非嫡出子」という意味です。
昨今はあまり使われない言い回しかもしれません。
不適切でしたら、修正いたします。

幼くして母・ハンナ(舞空瞳)を亡くし、父に引き取られるも、寄宿学校へ。
そして留学先のイギリスで、花屋を開業します。

ハンナの死因は、アベルの工場火災。
労働者から恨みを買い、放火された疑惑がある火災。
そのため、アベルは慚愧の念が絶えず、クリスも父を許せずにいました。

父子の確執が、本作のベースにあります。
ですが、明日海と芹香の直接対決はありません。
過去の思い出と、現在のクリスの迷いを並行して描きながら、どんどん本質へと迫っていきます。

そして、花屋の従業員たちも、役割と個性がしっかり。

親友のジェフ(瀬戸かずや)は、クリスの力強い右腕。
謎めいたクリスを気にかけつつ、無理に事情を聞き出そうとはせず。
クリスの意思や気持ちを尊重し、バックアップを惜しみません。

フローリストのアナベル(音くり寿)はかつて、怪我でバレリーナの夢を断念。
偶然通りがかり、楽しげに働くクリスの姿に引き寄せられ、「この店で働けますか?」と門を叩きました。

生真面目で責任感が強いアナベルは、融通が利かず、周りから煙たがられている面も。
「己がいるべき場所はここではないのでは…」という迷いも抱えています。

内戦の傷が癒えないクロアチアから、仕事を求めて渡英したミア(仙名彩世)は、他者の優しさを素直に受け取れません。

子供の頃、安易に塹壕に入り込み、残っていた地雷で幼い弟を亡くしたミア。
弟の死に対する自責の念ゆえに、「私だけ幸せになってはいけない」と自戒しているミア。

大切な人を、己のせいで死なせてしまった。
死んだ人は帰って来ない。
取り返しのつかない事をしてしまった…!

これは、アベルとミア、それぞれが背負う十字架です。
クリスの前に、時空を超えて、父と同じ後悔を抱える人が現れました。

また、ミアは職場で嫌がらせを受けます。
同じ職場のセルビア人が首謀者。
セルビアとクロアチアは、内戦で敵対していました。
その怨恨が尾を引いていたのです。

苦境に立たされるミア。
そんなミアを、放っておけないクリス。

そんな折、父危篤の報が届きます。

葬儀を終え、父の弟・エーリク(高翔みず希)がクリスに、ハンナやクリスが知り得ないアベルの苦悩を語ります。

子のないヨハンソン夫妻は、救貧院から子どもを引き取り、後継として育てました。
それがアベルだったのです。

13年後、実子・エーリクが生まれるも、夫妻はアベルも等しく我が子として、後継者として、慈しみ育てました。
しかし、アベルはエーリクを差し置いて、己が後を継いでいいものか苦悩します。

アベルとハンナが正式に結婚しなかったのは、ヨハンソン家の反対があったから…では、ありませんでした。

ハンナが、アベルの求婚を断ったのです。

ハンナは、己とアベルそれぞれの生き方を尊重した上で、愛し合う道を選びました。

アベルは、ハンナの決断を受け容れます。
ハンナとクリスは森の別荘に住み、アベルが週末訪れる、親子3人の暮らし。
それは、愛と笑顔にあふれた生活でした。

そんなある日、父が急逝し、アベルが会社を引き継ぐことに。
迷う以前に、まだ学生だったエーリクには後継は無理でした。

受け継いだ事業は、経営状態が悪化し、周囲は売却するものだと思っていました。
…が、アベルは手放すどころか、再建を目指します。

政略結婚をし、事業建て直しを図るアベル。
ハンナとクリスの元から、足が遠のかざるを得ませんでした。

労働者にとって苛烈な労働条件を提示する、アベル。
反発する労働者を解雇し、恨みを買います。
それが、ハンナの死へと繋がっていき、アベルは重い十字架を背負うことに…。

かつてハンナとクリスが住んでいた別荘は売却され、他者の手に渡りました。
ですが、再び売りに出された事を、エーリクが発見。
クリスを連れて行きます。

ハンナと暮らした家。
そこで、懐かしい記憶が次々と呼び覚まされます。

「花は、神様のプレゼント」

ハンナは幼いクリスに、そう教えました。

「美しいもの、優しいものは、喜びの種」
「憎しみは、争いの枝を伸ばす」

また、アベルの足が遠のく中、クリスはハンナに問います。

「パパが来なくて、ハンナはパパを嫌いにならないの?」

ハンナは、実に正直に応えます。
アベルに不安や不満を感じる事があると、素直に認めます。

「でもね、そんな時は森へ行くの」
「森の中をただ、ただ、歩いていると、心の声が聴こえるの」

余計なものが削ぎ落とされた、素直な心の声。

「アベルを愛してる」
「クリスを愛してる」

それが、ハンナの心の声。

懐かしい森の一軒家で、クリスも心の声が聴こえたのでしょう。
確執と恩讐を超えて。

「ババ、だいすき」
「ハンナ、だいすき」

原点に立ち返り、新たな一歩を踏み出そうと決めたクリス。

その決意を受け、ジェフ(瀬戸)は快く後押しを約束。
花屋のスタッフ陣も、クリスが抜ける穴を埋めるべく、大いに張り切ります。
アナベル(音くり寿)だけは「店長がいなくなったら、続けていけるかな…」と弱気。

ロンドンの花屋を任せる後継者を選ぶクリス。
新店長はライアン(綺城ひか理)だろう…との大方の予想を覆し、アナベル(音くり寿)を指名。

「無理です、自信がありません」 

怖じ気づくアナベルを、クリスはじめスタッフや常連客、その場にいる皆が励まします。
アナベルが花を愛し、真摯に仕事に取り組む姿勢を、みんな知っていたのです。

…と、かなり詳しくネタバレ致しました。
そして、途中で切るというね……。
「最後まで書き切れよ」と思う方もいらっしゃるでしょう。
ごめんなさい。

観劇済の方はお気づきかもしれませんが、ストーリーを追いながらも、そこそこ偏った解説になっています。

それぞれの人物が、私自身とリンクしている(と感じる)箇所を中心に書きました。
長くなりましたので、今日はここで一旦お開き。
どこがどうリンクしてるか、いずれ書くかもしれないし、書かないかもしれません。

「ハートウォーミング」と表現される作品ですが、私にとっては『共鳴と浄化』かなぁ…。

ひとつ確実なのは、クリスみたいな素敵な人と恋に落ちてない、という事ですな。
……くうぅぅ〜〜(>_<)

そして、ひとつ残念なのは、ウサギのサニーちゃんを絡めるのはいいんですが、絵本に描かれた世界観を「理想」と言い切るとは。
それが究極の幸せな社会だと。

植田景子先生、サニーちゃんワールドでまとめなくても、先生が描いたオリジナルの脚本と世界観で充分、伝わってきましたよ…!

サニーちゃんはサニーちゃんで素晴らしいと思います。

私個人としては、サニーちゃんの言葉より、景子先生の紡がれた言葉や設定の方が、ズシンと来ました。

演者のナチュラルな演技が、言葉や設定に厚みを持たせたことも確か。
虚構を真実に、見事に塗り替えていました。

……うぅむ、こんなに来るとは。
こんなに効くとは。

点滴効果すごいよ、明日海さん。
返り討ちに遭った気分です……良い意味で。


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