約50年前。
私が小学校入学時の4月。
父の田舎に家が建てられ、
引越した。
その時、
ひとりっ子で鍵っ子になる私の為と
父が仔犬をもらった。
親戚から譲り受けたのは、
秋田犬とコリー犬との間に産まれた
仔犬だった。
初めは小さかったけど、
大型犬の子だったので、
来て1ヶ月を過ぎる頃には
どんどん大きくなり、
2本足で立つと
小1の私の背をゆうに超えた。
可愛かったのは1ヶ月ほどで、
大きくなった彼に怖さを
感じるようになった。
でも、スパルタな父に
「お座りとお手をさせてから
ご飯をやれ!」
などと命じられ、
噛みつかれないか、
ヒヤヒヤしながらお世話をした。
でも、彼は頭のいい犬だった。
家の裏山に人が入れば、
吠えて知らせるなど
番犬としては申し分なかった。
父は仕事から帰ると、
毎晩、散歩に連れて出かけたが、
田舎で誰も出歩いてないからと、
散歩途中でリードを外すようになった。
彼の親達は、牧場の犬。
リードを付けずに走り回って牛を
追いかけていた。
そんな親犬の子だから、
自由な時間も与えてやりたいと
父は思ってたのかもしれない。
毎日、彼は一緒に出かけた父より
いち早く家に駆け戻ってきて、
「ウォン!ウォン!」と
家の前で私と母に知らせるように吠えて、
また、父を迎えに行く。
今でも家のそばの坂道をかけ上がってくる彼の足音が蘇る。
そして、あの日がやってきた。
夏休み前の7月の夕暮れだった。
もう暗くなってた。
その日も遅かったが、
いつものように父は散歩に出かけた。
母は遅いから今日はやめるようにと
言ってた記憶がある。
そして、彼はいつものように、
ひとりで家に駆け戻ってきたところで、
朝刊を持ってきた新聞配りの
お婆さんに鉢合わせしてしまった。
彼は暗がりの中、分からなかったようで
とっさに噛みついてしまった。
その騒ぎに近所の人、母は外へ出て、
救急車、警察と大騒ぎになった。
「大きな犬を飼うからじゃ!」
「リードを外すからじゃ!」
たくさんのお叱りの声。
彼は噛みついた瞬間に
マズいことをした!と分かったようで、
シュンとおとなしくなった。
その時から、
餌も一切食べなくなった。
噛みつかれたお婆さんからの要望で、
保健所へ連れて行く事になった。
数日後、保健所へ連れて行った父が、
「檻の中からこっちをじっと見てた。
どうなるか、わかったんじゃろな。
動物園のライオンの餌になるな」と
他人事のように話す父に怒りを覚えた。
小1だったけど、涙が止まらなかった。
その後、遠足で動物園へ行った時は、
ライオンを見て辛かった記憶がある。
父が、リードを外さなければ、
こんな事にならなかった。
彼が悪いんじゃない。
悪いのは父。
暗がりで何かとも分からずに、
父を守ろうとして噛みついたのかもしれないのに。
朝刊を夜に配達してたお婆さんにも
怒りを覚えた。
そのお婆さんが、1年以上に渡って、
慰謝料を求め、普通に歩けるのに、
うちの親の車が通ると、急にビッコをひいたりして、演技してる話を聞かされて悲しかった。
両親は毎月、慰謝料を持ってお婆さんの家に通っていたのも知っていた。
そのお婆さんの孫が上級生にいた。
その後も、近所から悪く言われて
住みづらかったのは言うまでもない。
建てたばかりの家を捨てて出るわけにも
行かず、
母は
「犬なんて絶対に飼わない!」
それが口癖だった。
犬は、飼わない!が
私の当たり前だった。
そして、時を経て、
夫が10年前から、犬を欲しがるようになった。
休日はペットショップやブリーダー通いに同行させられた。
ずっと却下を繰り返してたが、
その後、夫の希望を受け入れて、
お姉ちゃんワンコをペットショップから
迎える事になった。
夫が飼い始めたお姉ちゃんワンコだけど、
結局、専業主婦の私が全ての世話をした。
子供達が大学生になっていたので、第二の子育てのような感じだった。
当時、自分の両親の介護のため、週2回、50キロ以上離れた田舎まで車を走らせてた。
そして、助手席にパピーだったお姉ちゃんワンコも乗せて通うようになった。
父はトイプードルの可愛さなんて
分からず、
「汚い犬じゃな!」って嫌味を言ってた。
若い頃の父はあらゆる動物が好きだったのに、お姉ちゃんワンコを可愛がるなんてなかった。
それだけ、気力も体力が弱ってたのかな。
そして、6年前に父が亡くなった後、
私の家族と同居を始めた母。
「犬なんて、畜生だから」と
過去の事件を引きずって嫌ってたけど、
一緒に生活するうちに、
ワンコと離れて生活できないようになってきた。
ワンコ達が
トリミングや
予防接種で動物病院へ出かけると、
とても寂しがるようになった。
お留守番もワンコ達がいれば、
何時間でもOK。
約50年の時を経た今、
母と犬とは離れられない関係になった。
私も
毎日、2匹に取り合いされながら、
生活している。
ワンコ達がいなければ、
この2025年の出来事には
絶対、耐えれなかったと思う。
もちろん、ワンコ達がいなくてもいい。
夫さえ元気で生きてくれたなら、
それだけで充分幸せだったのに。
「〇〇ちゃん、分かってる?」
そういつも戻ってこない天国の夫に
語りかけてる。