うどんを味わいながら、でも、ぼくはその味よりもむしろ
懐かしさに浸っていた。
ちょうど、ぼくの隣のにいちゃんが「生じょうゆ」を頼んだ。
すぐさま、店主が近寄り、例の講釈を始める。
懐かしく聞いてしまう。食べているうどんによりも注意が行く。
そのうち、にいちゃんが最初の一口すすった。
店主は講釈を終え、そのあと、ちらりとぼくを見た。
ドキッとして、思わず、口に入れたうどんを噛み切ってしまった。
ぼろぼろとうどんがしるに落ちる。
すぐさま、店主の視線が離れた。
「もっとうまそうに食うてみー」
そんな声が聞こえたような気がした。

丼を置き、少し落ち着こうとポケットを見る。
小さな「PON」はやはり微笑んでいた。
「かわらないだろう。あの時を思い出したかい?」

店を出て、あらためてここを訪れて良かったと思った。
今度いつ来られるかわからないが、この店と店主には
変わらずにいてもらいたいものだと思う。