職場の60代の男性社員は、ベテランなので今年から配属になった私に仕事を教えてくれていた。

班長は専門が違う方なので、私に仕事を教えられるのは、その男性社員しかいない。


私とその男性社員と同じ業務ラインにいるもう一人いる社員は、体を壊しており、実質仕事に関わっていない。


よって、本来3人でやる仕事を、私とその男性社員の2人で受け持っている。

私は明らかにこの業種で経験不足なので、その男性社員から教わらなければ仕事にならない。(OJT形式の職場であるため)

その人は、好きな人と嫌いな人への態度の差が分かりやすく、嫌いな人にはかなりキツい言い方をする。その態度を管理職に注意されると、フテて急に休みをとったりしたこともある。

もともと他の業種から組織改変でうちの会社の通常業務に組み込まれた人材の一人で、もともとの能力が活かせない職場に無理矢理行かされたことについて、まだうちの会社に不満を持っているような言動をする。


私は、その男性社員と良好な関係を築かないといけない。


その人を、孤立させてはならない。

私が悪く思われると、この人は会社のこと全体をまた敵認定してくるのではないか?

この人は周りから、内心煙たがられているが、私だけは、この人の敵にはなれない。

そうなると仕事にならない。


と、私は思って、この人と組織全体との橋渡しができたら良い、と思って、接してきた。




というところまでが前置き。


今から2ヶ月ほど前、この男性が

「相談したいことがあるんだけど、食事に誘っていいか?」と、他の人がいない廊下で言ってきた。


私は自分が仕事で何か変なことをやらかしており、怒られるのかと思って、「わかりました」と即答した。


妹にその話をしたら、

「そのオッサン、下心あるねぇ」

私は、いくらなんでも、相手は親ほど年離れてるから、それは妹の穿ちすぎだと思っていた。


当日。


オッサンの相談内容は、他の職場から引き抜きの話が出ているということだった。


叱られなかった、よかった、と安心し、

「ご栄転、おめでとうございます。」と言った。


しかし、オッサンは、健康面や経済面での心配があること、また、同じ職場に私がいて、まだ一緒に仕事がしたいので、その話は魅力的だけれど、断ろうと思う、という旨のことを言った。


私は、「どんな仕事でも、〇〇さんの選択であれば、祝福します」と言った。


その後、仕事についての話になり、しばらく料理わ食べながら聞いていた。

私は下戸なのでウーロン茶しか飲まなかったが、オッサンはビール2杯の後、酎ハイを何杯かおかわりした。

普通に職場同僚の飲み会だ。安心した。


しかし、その後、なんだか「?」となったことについて


オッサンが、「〇〇ちゃん(私)好きじゃわ〜」と連呼し始めた。

私は、酔っ払いの冗談だと思って、テキトーに「ありがとうございます」と答えておいた。

その後も、その好きだコールは続いた。

飲み屋の他の席の人に、パパ活だと思われたらどうしようか、と少し心配になった。


その後、オッサンは、仕事のない日曜日に、レンタカーを借りるので、県境のオシャレカフェにドライブしよう、と誘ってきた。


私は「良さそうなお店ですね」とだけ答え、答えを濁していた。


オッサンはなお畳み掛ける「誘ってもええ?」

私は、ここで断って機嫌を損ねるよりは、誘いが来た時に「ごめんなさい、その日空いてません」という方がカドが立たないと思い、

「はぁ…」というと、電話番号を交換する流れになった。


そしてその後、一番引っかかる発言をしてきた。

「でもこのドライブ、奥さんに誤解されるといけないから、奥さんには内緒にするな」


私は、何かがブチ切れ、間髪入れずに

「何の誤解ですか?ただの同僚なのに、何を誤解するんでしょう?というか、奥様もご一緒の家族のお出かけじゃないんですか?当然、奥様もご一緒でしょう?」と言った。


オッサンは「ああ、そうじゃな」と微妙にタジタジなった。


これでもうそのカフェには誘ってこないと思った。


その後、下品なおばさんのいるスナックに連れて行かれた。

いきなり食べかけの卵かけご飯を勧められて、断れずに食べてしまった。

吐きたかった。




この半月くらい後に、今度は「相談がある」などではなく、普通に飲みに誘われた。


私は、仕事を円滑に進めていくためには、このオッサンとの関係にヒビを入れてはいけないと思い、気は重かったが、「はい、いいですよ」と言った。


当日は生理前の頭痛のせいで朝から気分が悪かった。

当日ドタキャンはいけないと思い、仕事終わりの時点でかなりぐったりしていたが、飲み会に行った。


オッサンは、毎回そうするが、

「ワシみたいなオッサンが、〇〇さん誘ってよかったんじゃろうか?他の人に申し訳ないな〜」

と何度も言った。


私は、「では、他の人も誘いましょうよ。今年は、〇〇さんは体を壊されているから、体調面で無理ですが、来年、新メンバーになったら是非」と言った。


オッサンは、自分が私を特別視しているから、私からも自分を特別視するようなポーズを確認したかったのだろうと思った。


会社の正社員の女子を、自分サイドに引き込んだたいう確信が、おそらく彼の中で、会社全体への何らかの仕返しになるのだと思った。

「この子は、おまえらではなく、ワシを選んだ」みたいな。


だから、オッサン的目線での模範解答は「〇〇さんの誘いだから、喜んで来るんですよ〜!他の人が来たら、なんだか気詰まりですよ〜」と笑顔でいうこと。


しかし、私は、この解答は、したくなかった。

私は暗に

「私は同僚みんなに平等に接するから、あなたは沢山いる同僚の一人であって、今日はたまたま二人きりなだけだ。」と伝えたことになる。



当然だが、場の温度が、少しずつ下がる。



私は、いつものように笑うことができない。

疲れすぎている。

オッサンは、心配そうなポーズの下で、微妙に不機嫌になる。

わざと意地悪な質問などをしてくるのだ。

「大学、ぜんぶ奨学金とバイト代で行ったんじゃって〜?あれ、すごい金額なんじゃろ?まだ返しとるん?そんだけの覚悟で行くんじゃ?」など、微妙な学歴コンプレックスを発言に織り交ぜるこの人の普段の癖そのままに言ってきたりした。


私は、「最初は、借金してでも行かせてあげるって言われてたんですが…」と顔を完全に背けながらわざとそっけなく言った。

それ以上立ち入るなというサインだ。

私はプライベートに立ち入られるのが何より嫌いだ。

オッサンは、「この話題もやめようか」と言った。


その後、オッサンは

「あなた、職場で無理しとるんじゃないん?

時々、話しかけづらい時あるんよ」と言った。


私は「すみません。私の悪い癖なんです。集中すると、入り込みすぎて、そんな雰囲気出るらしいんです。気にせず、話しかけてください」と言った。


オッサンは、その後もしきりに、「心配だ、〇〇さんに笑っていてほしいから、なんでも相談してくれ」ということを何度も何度も言ってきた。


私は、自分が覆い隠しているはずの、自分の変なところが悪目立ちしている、と指摘されたのかと思い、

「自分では普通にしていたつもりでした。何か普通でなかったのなら、すみません」と言った。

この時点で、かなり精神的に参っていた。

私はやはり、普通でないように見えるのか。


オッサンは、私がいつもみたいに笑っていないのが不満なのだ、と思った。

確かに、いつもの私なら、心からの笑顔を自然に装い、真心からの言葉のように相手の望む言葉を相手の望む態度で言える。


でも、それはものすごく疲れるのだ。

いつも笑っていないといけないのか?

笑えない時があってはいけないのか?

と悲しくなる。


オッサンは、

「〇〇さんを笑顔にしたい、前に行こうって言ってたカフェに行かん?日曜日どっか空いてたら」

と言ってきた。


きっとそこに、私自身の笑顔はない。

私の笑顔で笑顔になりたいオッサンなら、いる。


ここで、本当に何かが限界に来て、堪えようとしても涙が溢れてきた。


オッサンはその私をみて呆然とした。


「ワシは、オッサンの愚痴聞かせるために飲みに誘ってるんじゃないんで?」


本当にそんなこと考えていない人は、そもそもそんなセリフいわない。


ついにここで私は限界がきた。

奥さんには内緒発言をちゃんと封じられたから、もうカフェに行こうとかいう手は打ってこないと思っていたのに。



「心配してくださる気持ちはありがたいです」と言って、その場の飲み代の半分の金額のお札を置いて、「今日は、なんだかおかしいので、もう帰ります」と席を立った。


まだ夜8時だったが、帰り道は真っ暗で、小雨が降って寒かった。


雨の道を歩きながら、私はしみじみ、妹が県外に行ってしまったことが、自分が思っている以上にこたえていたことに気づいた。

誰もいない真っ暗道を歩きながら、声をあげて泣いてしまった。


帰って鏡を見たら、瞼が腫れて酷いブスだった。

その日の晩は、食欲ないのに飲み屋で無理矢理笑顔で詰め込んだカキフライが胃にもたれ、なかなか寝つけなかった。






行かなければよかった。



けど、この日に行かなければ行かなかったで、体調の良い日に行っていたら、また上手な笑顔でやり通せてしまっていて、苦しみが続いたかもしれない。



最初からキッパリ、「相談したい」と言われた時に、なぜ「何でしょうか?ここでどうぞ」と言わなかったのだろう?

いや、私の性格ではその選択肢はコマンドに現れないのだろうが。


無駄に怯えている自分が自分で不思議なのだ。


本当に馬鹿だと思う。


世の中全て、純粋な好意を純粋な好意として受け取って、それ以上を求めない人間ばかりなら、私のやり方でもかまわない。

でも、そうではない。


それは分かってるはずなのに、いつも脊髄反射で、相手が今一番言ってほしい言葉を言うマシーンになってしまう。

それで、時々こんなふうに、この態度が誤解を受けるし、どんどんつけいられる。


分かってるのに、反射的にやってしまうんだ。

自分でも不思議なんだ。


私は、普通に仕事がしたいだけなのに。

職業人としての仲間意識を醸成したいだけなのに。それを何でわからない?

舐めている。

私が既婚者なら、背後に男性の影がチラつき、こんな不当な舐められ方はしないのかもしれない。


そういえば、その日の飲み会では、

「今日は指輪してないんな〜?」と、最近痩せてピンキーリングを落とすばかりしていた私の指を見て言われた。

暗にそれを確認されていると思ったけど、プライベート詮索への呼水になりそうだったので、

「最近体が弱って痩せて」と言って誤魔化した。


こんな、親ほどの年齢の人に、キャバ嬢みたいな恋愛まがいの良い思いまでさせないと上手く回らない仕事って、何なんだろう?


それとも、私の考えすぎ、勘ぐりすぎ?なのか?

(でも、過去にそう思ってその勘を無視し続けてもっと酷いことになったことがある。)


どうすれば…???




そのオッサンは、涙が目に溢れてしまった私をみて、

「難しいなあ」と連呼していた。

私は「何がですか?」と返事をした。


何が難しいのか?

私の性格が難しいと言われているのだと思う。

それは、自分でもそう思う。

なんで自腹を切って参加してる飲み会でまで、人格を責められるのか。

悲しい。



誰も、相談できる人はいない。


普通、そんな時は、まず母親に相談するのかもしれない。

しかし、私の母は、外面は死ぬほど良いが、娘に対しては禅院直哉ばりのモラル崩壊だ。


私がまだ会社に入りたての頃、飲み会で酔った職場のオッサン2人に掘り炬燵式カウンター席の両隣に座られ、逃げられない状態の時に、太ももを触られまくった時のことを相談した時は、

母は「私がOLの頃なんか、お尻触られるのなんか朝の挨拶がわりだったで?」と言われた。

母は自己認知が歪んだ人なので、セクハラでも何でも、男性から興味を持たれることが嬉しいようなのだ。だから、私の話を自慢だと捉えたのかもしれない。


本当に、ありえない。

私は気持ち悪くて吐きそうだったし、その後、職場でその人たちが近くにいるだけでストレスで手汗が酷くなった。


年子の妹が昔、母に虐待されていた時、父に助けを求めた際、「私の男に色目使ってんじゃないわよ!」と言われたらしい。

禅院直哉にも失礼だったかもしれないレベルのあり得ない母だ。


私が、仕事場で年上のキツい上司から毎日つらくあたられて参ってた時ですら、

「アンタは大学院に行った分、人より多く遊んでるんだから、それくらい我慢しなさい」

と笑いながら言ってきたような母だ。

大学も大学院も、自分で奨学金で行った。だから、社会人から見たら、学生は遊んでいるように見えたのだろうが、母にそこまで言う資格があるとは思えなかった。



話が逸れた。

結論から言うと、相談相手は、いない。


年子の妹は、賢い子だから、「ついて行ったお姉ちゃんの責任。馬鹿じゃねん?」っていうと思う。その通りすぎて、その通りだとしか言えない。



私はなんで、いつもいつもいつもいつも、他人の希望に無意識に沿おうとしてしまうのか。

まるで脅されてる人みたいだ。

相手からしたらただのカモだ



3連休でよかった。


月曜日以降、オッサンとの心理的距離を適正に、しよう。

連絡先も、削除してもらおう。

跳ね返し力が上がるよう、お葬式みたいな真っ黒な服で固めて行こう。


それでもまだ何か距離を詰めてくるようなら、班長に、こんどこそ、相談しよう。

あまりことを荒立てたくはない。

そのオッサンは私が告発したら多分次は家から遠い部署に異動か、悪くて任用止めになる可能性がある。

(それがしのびなくて、今まで職場の誰にも言えなかった。)


この3連休は、クールダウンにはちょうどよかった。

なかば衝動的に、連絡先を削除した。



怯えてしまうのは私自身の問題。

不適切な発言をしてくることだけが、オッサンの問題。

どこからどこまでが現実問題として問題なのかを、きちんと説明できるようにしておこう。