インド最後の記事は、ともにヴァラナシを旅した

じゃけんが作った物語 ~ヴァラナシの牛~ 。

目にした思い出、感じた空気、思いが詰まった物語です。


何か感じることがあった人はぜひコメントくださいね。


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ヴァラナシの牛  

written by SHUNSUKE.N


「雨上がりだから今日は特にクサいなぁ・・・

君たちがそこら中でするからこんなにクサいんだよ。

見てよ!ボクのスニーカーこんなにベトベト」


「しかたないじゃん・・・するところないんだもん・・・」


ビッビー! 

ボクはガネーシャが運転する車の助手席に乗っています。

ガネーシャに実際会うのは初めてなのでちょっとワクワク緊張です。

ガネーシャはやさしいいい奴でした。 


「ガネーシャ どこに行くの?」 

「ガンガーだよ。」

「なーんだ。ガンガーかぁ。」 


ボクは牛です。

ガンガーの街で育ちました。


「さぁ。ここで降りて!」 

「うん」 


車を降りたら、ガネーシャが手をつないでくれました。

いつも散歩していた道です。

ボクはこの街に住むみんなを知っています。


「さぁこっち」 


ガネーシャはボクの手を引いて、

ボクの知らないレモン色の細い道に案内してくれました。



5分ほど歩いた先に、ガンガーが見えました。

階段の上に、煙の中に立つシヴァが見えました。

シヴァは怖いと思っていたけど、ニコニコスマイルでした。 


「さぁおいで^^」

シヴァが手招きしてくれました。


シヴァに近づくと、そこにはボクのボディがありました。

ボクの周りには、きれいな花びらがいっぱいありました。


ガネーシャが言いました。

「今からボクが君のボディに火をつけるよ。

熱くないから心配ないよ。」 


ガネーシャは続けました。

「君のボディが燃えている間にね。

シヴァが君のメモリーを壊していくんだ。」


「メモリーを壊す?」 

ボクはびっくりしました。


「そう君が完全に灰になるまでに、シヴァが君の

全ての記憶を破壊するんだ。」

「心配しないで!ぜんぜん痛くないし怖くないよ。

君のメモリーがなくなるまでにやって欲しいことが3つあるんだ。」 


「うん」 


「まず、1個目。

君のインナーボイスを聴いて欲しいんだ。

君の両親や先生、友達が教えてくれたことをぜーんぶ忘れて、

君のインナーボイスを聴いてね。」 


「うん。難しいなぁ」


「ゆっくりでいいよ。

君は本当はどういう風に生きたかったのか?を思い出して欲しいんだ。」 


「なんでそんなことやるの?」 

「幸せになるためだよ。」 

「わかった」


「次にね・・・ ごめんねを言って!」 

「誰に?」 

「君自身が幸せなろうとして、傷つけたみんなにだよ。

シヴァがそのメモリーを壊しちゃう前に、ごめんねを言ってね。」 

「わかった」


「最後に・・・ありがとうを言って!」 

「誰に?」 

「君を思いやってくれたみんなにだよ。シヴァが壊しちゃう前にね。」 

「うん、わかった。」 


「さぁ!火をつけるよ。」

「うん。うまく考えられるかなぁ・・・」

「大丈夫。時間はたっぷりあるよ。」

「わかった。やってみる。」


「さぁ。行くよ!」と言って、ガネーシャは、

スマイルでボクのボディに火をつけました。


炎の中でシヴァは、鉾と弓を使って

ボクのメモリーを壊し始めました。


「ちょっと待って!」って言いたかったけど、

シヴァは青白い顔で黙ってニコニコしながら壊し始めました。



インナーボイスを聴こうとしたら、自然に聴こえてきました。

「そうだったのかぁ・・・」って思って、自分の生涯と

ずいぶん違ったので笑ってしまいました。



たくさんの「ごめんねとありがとう」を言いました。 

次々、大好きだったみんなを忘れていくのがわかりました。 

忘れていくのがわかると、悲しくなって涙が出てきました。


一番大切な思い出が最後に残りました。

ずっと一緒にいた大好きな女の子と、むかし雨宿りした思い出です。

忘れるのがイヤだったので、「ありがとう」を言いませんでした。


最終的にボクのメモリーはそれだけになってしまいました。


シヴァが「さぁそれも壊すよ^^」って言ったので、

やさしくしてくれたその女の子に「ありがとう」を言いました。



灰になって、思い出を全てなくしてしまったボクは

ピンクのリボンになりました。

空に向かってゆっくり舞い上がりました。

風が気持ちよかったので、目をつむりました。



気づいたらボクはイネにひっつくお米になっていました。

すずめという大きな鳥が、隣の女の子にぶつかりました。


「大丈夫?」ってその女の子に言いました。


その女の子は、「大丈夫。ありがとう。」って言って、

ボクにキスをしてくれました。


嬉しかったので、ボクもその女の子にキスをしました。

その女の子と仲良くなりました。


雨が降ってきたので、その女の子と葉っぱの陰に入りました。

「ちょっと寒いね。」

「そうね。」 


秋の雨がとっても気持ちいいです。

とっても幸せな気分です。


<おしまい>