うららかな秋の日の午後
車両の揺れに心地よく身を任せる私の
斜め前の優先席には祖父&孫&孫
と言った組合せの三人が座っていた。
年の頃は6才と3才くらいの女児だ。
彼女達は何故だろうか
凄まじい音量の奇声を発し続けている。
身内なら当然注意すべきレベルなのだが
お爺さんは目を細めて見ているだけ。
車両の端の乗客まで凝視するほどの声。
それは近くにいる私にとってはもはや暴力。
だったらお爺さんは大丈夫なのか!?
あ、耳が遠いのか!
のびのびと育った長女が土足で座席に上り
吊り革に掴まってぶら下がり始めた。
二女、発狂せんばかりに興奮し
おのれの頭上の長女に声援を送る。
鼓膜が死ぬ。
私に少しの勇気と俊敏さがあれば
長女の座っていた座席(現状空席)に
スライディングして座ってやるところだ。
これが親子の組合わせだったら
きっと叱る→グズる→止まるのだろう。
しかし祖父と孫では勝手が違うのだな。
仕方ない。今回はもう我慢しよう。
と溜め息をつく私の横から
突如、別の奇声が上がった。

 

見ると海外からの旅行客のようだ。
そこの子供達が優先席の
子供達に触発されたのだろう
座席の上で叫びながら土足ジャンプを始めた。
そうか掴もうにも吊り革に届かないんだな。
何度失敗しても努力を繰り返す彼ら。
日本の文化が間違って伝搬した。
親族達も余波で弾んでいる。
その隣で他人の私達も巻き込まれ
弾んでいるこの状況はどうしたものか。
色々を通り越して笑えてきた。
無法だ。
車両内に諦めの雰囲気が漂う。
「仕方ないよね。」
「せっかく日本に来てくれているんだし」
「日本の子供が見本を見せたのだから」
「観光に水を差すのも悪い」
と暗黙の会話が成り立ったように
乗客はみな一様にうつ向き目を閉じる。
私も調和を乱さず周りに倣う。
すると次の瞬間、
跳びはねる子供達を記録に残さんと
母親らしき女性が通路に立ち
カメラのシャッターを切りまくった。
カオスか。
(・∀・)
カメラの角度や距離から察するに
私達もフレームインしている。
普通、日本ではソレしないのよ?
他人を勝手に写真におさめないよう
気を遣うのよ?マナーでござるよ?
でも旅行客アリガタイ。
ウェルカムトゥジャパン。
トーキョー2020。
周りの乗客達は写真に写りこまないよう
身体を捻ったり、顔を伏せたり
シャッターから逃れようと様々努力をする。
何故かこちらが全力で気を遣う。
私は確実にフレームにおさまる位置で
静かに襟をただし、背筋を伸ばし
この上ない憤怒の表情をしてみた。
般若でももう少し可愛い。
せめてもの抵抗。私の中のリベリオン。
母親は子供達しか眼中にないのだろう
私の表情に気付かずシャッターを押し続ける。
撮られておる。
間違いなく我の顔が撮られておる。
後にホテルに戻り、
もしくは本国に帰ってから気付くがいい。
日本人の一人が隣であからさまな
憤怒顔で弾んでいた事に気付くがいい。
その瞬間を想像するとちょっとおかしい。
しかし今、自分が人知れずこの顔を
している事の方がおかしい。
不届きな旅行客の思い出の1ページに
少しケチをつけてやるためだけに
ひとり般若顔をして座席で弾んでいるのだ。
寧ろその写真が欲しくなってきた。

 

こんな出来事がニコニコ生放送の
スタジオに向かう最中にあったのです。
言おう言おうと思っていると
忘れるものですね
(*゚ー゚)ゞ照れ。
あの車内でどうするのが正解だったか
生で聞いてみたかった
(笑)