居を構える(1)
Installaion
ドーデー『風車小屋便り』から


————————【1】——————————

  Ce  sont  les  lapins  qui  ont  été  
étonnés !...  Depuis  si  longtemps  qu'ils
voyaient  la  porte  du  moulin  fermée,
les  murs  et  la  plateforme  envahis  par
les  herbes,  ils  avaient  fini  par  croire
que  la  race  des  meuniers  était  éteinte,
et,  trouvant  la  place  bonne,   ils  en
avaient  fait  quelque  chose  comme  un
quartier  général,  un  centre d'opérations  
stratégiques :  le  moulin  de  Jemmapes
des  lapins...  

 
————————(訳)————————————

 驚かされたのは兎たちだ.兎たちが風車小
屋の扉が閉められているのを見てからは、も
うずいぶんになる.外壁も高床も雑草がはび
こり、兎たちは、ついに粉ひき連中たちが消
え去ってしまったと思うに至った.そしてそ
こが素敵な場所であると見いだすと、彼らは
そこを司令部とみなし、中央作戦本部に仕立
て上げた.いわゆる兎版ジェマップ風車小屋
である.


 ———————⦅語句⦆———————————

installaion:(f) 居を構えること、定住
plateforme:(f) 建物の基壇     
envahir:(他) 一杯に広がる、満たす.
   Les sporters ont anvahi / サポーターは
   スタンドを埋め尽くした.
   champs envahis par l'eau / 冠水した畑
   Les mauvaises herbes envahissent le 
   jardin. / 雑草が庭にはびこる.
      envahir le marché / 市場を満たす.
   (に)あふれる.
   les murs et la plateforme envahis par les 
   herbes. / 草でぼうぼうの壁や平台.
finir par + 不定詞:ついに~する、
   最後には~する、結局~する 
herbe [エルブ]:(f) 草
croire:(他) 信じる、croire que + 直説法
   ~だと思う、のような気がする、 
race:(f) 人種、種族、仲間、連中
meunier, ère [ムニエ, エール]:(m/f) 粉屋、
   製粉業者
éteint, e [エタン, エターント]:(形) 消えた、
      <  éteindre (他) 消す
trouvant:(現分) < trouver
trouver:(他) 見つける、発見する.
trouver A C: A をCだと思う.(C は属詞)
      Je le trouve gentil. / 
   私は彼を親切だと思う.
   J'ai trouvé ce roman très interéssant. /
      この小説はとても面白かった.
   Comment avez-vous trouvé le fulm ?
      その映画どうでした?
   Je l'ai trouvé ennuyeux.
   つまらないと思いました. 
ennuyeux, se [アンニュイユー, ーズ]:(形) ❶退屈な;
   ❷いやな、困った、煩わしい、厄介な 
place bonne:A C = 場所が素晴らしいと(思う)
trouver place bonne:そこが素晴らしいと思う 
avaient fait:(直大過/3複) < faire
faire quelque chose comme un quartier général:
      何か司令部のようにしている.
quartier général:司令部、総本部
centre d'opérations:中央司令部  
stratégique:(形)    戦略上の、戦術に関する.
(:) ドゥー・ポワン
   この記号は前文の言いかえに使われる
   ことが多い.訳すときは「つまり」、
   「いわゆる」、「すなわち」などを添え
   るとよい.この語句コーナーでは:を
   置いて、「その単語はすなわち~だ」
   のつもりで使っています.
   ついでに言いますと(;)ポワン・ヴィル
   ギュルは、いくつか例をあげるときに
   用いることが多いです.「その例は~と
   ~と~などだ」と訳すとうまくいくこ
   とが多いようです.
   あと、そうですね.(...)これはポワン・
   ド・スュスパンションですが、舌噛み
   そうなので、私は点点点と呼んでいま
   す.「まだ言いたいのだが」という心情
   ですが、これは訳しません. 
Jemmapes:ジェマップ(地名)(ベルギーの町の名)
      この町のどこかの風車小屋でフランス軍
      はオーストリア軍を迎え撃つ作戦を練った.
Jemmapes des lapins...:兎版ジェマップであるが…  


————————≪文法≫————————————

Ce sont les lapins qui ont été étonnés. において
qui は普通なら直前のlapins を先行詞とする
関係代名詞なのですが、この場合、
ce sont ... qui 
を強調構文と見るほうがいいかなと思います.
正しい強調構文は lapins のように複数を取っ
ていても、かまわず 
C'est les lapins qui ont été étonnés.
とするはずなのですが、lapins に
複数一致させているのはなぜか、私の貧弱な
知識ではわかりませんが、おそらく通常の強
調構文ではなく、勝手に名前をつけさせても
らえば、関係代名詞付け足し文です.

Ce sont les lapins qui ont été étonnés.
こいつら兎たちの何と驚いたことよ!

そういえば複数一致の例ではありませんが、
英語でもit's .. that の構文でit の代わりに
this is ...that 
を使っている文がありました.旺文社の
『日米会話必携』で、
This is a mighty color TV set that you have.
これはすばらしいテレビをお持ちですね.
明らかにテレビを強調している文です.
これも付け足し文でしょう.
これはすばらしいテレビだ、と言ってから
こんなの持っているんだ、と
関係代名詞で付け足ししています.
まさか
「これはあなたが持っているすばらしいテレ
ビです」.

と訳し上げたりしないでしょう.

中高生ならそう訳しなさい、と先生に教えて

もらうところ.そしてこれで100点もらえます.

 

でも私たち大人には、こんな

訳文では奇妙奇天烈です.相手に言い
返されます.

「あなた、何を言っているの?」

そういうわけで、Ce sont les lapins qui ~ 
のことを「付け足し的強調構文もどき」
と呼んでみたい気がしますが、みなさま、
いかがでしょうか?


————————≪長文≫————————————

 昔の作家は平気で長文を綴っていたようで
す.ドーデーも昔の人(1840-1897)なので、と
きどき、このような長文を書くようです.し
かし意味上、ヴィルギュル(,)で切れますの
で幾つかの文に分けて訳しましょう.