テレビで昭和の人はロレックスをローレックスと言っていた、というと
令和の人の反応は「何か変だ」.でもな、ぼくたち昭和世代はヴィクトル・
ユゴーを「ヴィクトル・ユーゴー」と言っていましたよ.ユーフォー
じゃない.ユーゴー.
あ、全然違う話ですが、今はユーフォーはUAPというらしいです.
レ・ミゼラブル(14)
———————【14】—————————
Quoi qu'il en fût, après neuf ans
d'épiscopat et de résidence à Digne,
tous ces racontages sujets de conversation
qui occupent dans le premier moment
les petites villes et les petites gens,
étaient tombés dans un oubli profond.
Personne n'eût osé en parler, personne
n'eût même osé s'en souvenir.*
————————(訳)——————————
いずれにせよ司教職就任から、またディーニ
ュに居住後9年がたって、はじめの頃に小さ
な町や町の人々が占めていた会話の内容から
もすっかり忘れ去られた.誰一人として敢え
て口に出すことはしなかったし、思い出そう
ともしなかったことであろう.
————————《語句》——————————
quoi que + 接続法: 何が~でも、何を~しても
quoi qu'l en soit / いずれにせよ、ともかく
これは接続法現在の例ですが
本文のquoi qu'il en fût はこれの接続法半過去.
いずれにせよ…であった、ともかく…だった.
épiscopat [エピスコパ] (m)❶ 司教職、司教の任期、
❷司教団
résidence (f) 居住(地)、駐在地、駐在期間
racontages 辞書に掲載なし
→ raconter + ages = 話す+ 接尾辞
=おしゃべり
尚、age は動詞の語幹について
「行為の過程」「行為の結果」
などを表す.
racontages は辞書にないほどなので、
かなり不自然な言葉だと思います.
学習者の私たちは使わないのがよいと思います.
oubli:[ウーブリ] (m) 忘れること、忘却
tombés dans un oubli: すっかり忘れられた
一般にtomber dand l'oubli で「忘れ去られる」
*) 接続法半過去が使われている.
—————————≪文法1≫——————————
仏文科やフランス語学科の人以外の方は、お
そらく接続法は現在と過去しか習わないかと
思います.しかしヴィクトル・ユゴー
(1802~1885)のような古い作家
(200年ほど前)の作品を読む場合、この接
続法半過去と大過去は避けて通れません.日本
で言えば、旅行する姿が、三度笠の旅がらすの
時代ですから.文法の三度笠、名づけて「股旅
文法」を学びましょう.「股旅文法」って、
よそで言わないでね!
接続法を要求する主節の動詞が、「現在」また
は「未来」のときには、従属節で現在・未来
のことについては「接続法現在」を使います.
過去のことについては「接続法過去」を使い
ます.
ここまでは大丈夫ですよね.
では
主節の動詞が「過去」または「条件法」のとき
には、その従属節が主節と同じ時、もしくは
その未来をいう場合は「接続法半過去」が使
われます.
そして
従属節が主節に対してさらに過去の場合は
「接続法大過去」が使われます.
接続法半過去の作り方は、2人称単数形
(tu )の直説法単純過去から終わりのs
をとったものに、次の語尾を加えて作ります.
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je ~ sse nous ~ ssions
ス スィヨン
tu ~ sses vous ~ ssiez
ス スィエ
il ~ ^t ils ~ ssent
ス
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aimer (愛する) で活用させてみましょう.
aimer の単純過去(tu)はaimas でs を取れば
aima
つまり、aima が接続法半過去の語幹です.
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j'aimasse nous aimassions
ジェマス ヌー ゼマスィヨン
tu aimasses vous aimassiez
テュ エマス ヴー ゼマスィエ
il aimât ils aimassent
イレマ イルゼマス
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avoir とêtre は 例外です.この2つは
接続法大過去をつくる重要な役目をもつ
動詞でもあります.みてみましょう.
avoir 接続法半過去
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j'eusse nous eussions
ジュス ヌーズュスィヨン
tu eusses vous eussiez
テュユス ヴーズュスィエ
il eût ils eussent
イリュ イルズュス
————————————————
être 接続法半過去
————————————————
je fusse nous ussions
ジュフス ヌーフュスィヨン
tu fusses vous fussiez
テュフュス ヴーフュスィエ
il fût ils fussent
イルフュ イルフュス
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接続法半過去の使い方.
接続法半過去は、主節が直説法の
過去形(単純過去、半過去など)
または、条件法のときに、それがあらわす時と
同時か未来のことを従属節で表します.
Je souhaitai qu'elle fût heureuse. /
私は彼女が幸せであるように願った.
(単純過去) (接続法半過去)
⦅従属節が主節に対し未来の事柄⦆
Il fallait qu'il rentrât immédiatement. /
彼はすぐ帰らなければならなかった.
(半過去) (接続法半過去)
⦅従属節が主節と同時の事柄⦆
接続法大過去は、avoir かêtre の接続法
半過去に過去分詞をつけて作ります.
avoir の接続法半過去 + 過去分詞+
être の接続法半過去 + 過去分詞
avoir を使うかêtreを使うかについては、
複合過去のときと同じで、aller など場所の
移動を表す自動詞や、代名動詞のときが
être、それ以外はたいてい avoirです.
—————————≪文法2≫———————————
Personne n'eût osé en parler, personne n'eût
même osé s'en souvenir.*
敢えてそれを話そうとする人はひとりもなく、
誰一人として敢えてそれを思い出そうともし
なかったことであろう.
現代仏文法では、接続法は基本的に従属節の
中で使われたり、未実現の関係節の中で使わ
れたりするものですが、ユゴーのような古い
フランス語では、このように主節や、独立で用い
られることがしばしばあります.その場合、
当然事実ではない事柄の叙述になります.
現代フランス語では慣用句で使われる程度に
使用頻度が減りました.訳すときには見えない
主節を想定して、「~と思う」とか「~だろう」
と付け足せばいいと思います.
慣用句の例:
On eût dit que tous ces objets parlaient.
まるでこれらの品々がみんな口をきいて
いるようだった.
(クラ仏 dire の項目の文例 )
On eût dit が慣用句です.接続法大過去に
置かれています.
普通は接続法は 従属節で使われるので
que の中に収められるのですが、慣用句は
独立用法です.