Une vie  /   Guy de Maupassant
  
女の一生(106)
Une vie (106)

    
—————————【106】——————————————
                           
   C'était  d'abord,  en  face  d'elle,  un  large  gazon
jaune  comme  du  beurre  sous  la  lumière  nocturne.
Deux  arbres  géants  se  dressaient  aux  pointes  de-
vant  le  château,  un  platane  au  nord,  un  tilleul
au  sud.
       
   
——————————(訳)———————————————

  まず彼女の正面には広い芝生があった.夜の光の下で
それはバターを塗ったようだった.巨木が2本、城館の
前、左右の端にそびえ立っていて、さらに北側には篠懸
(すずかけ)の木が、南には菩提樹がそれぞれ立っていた.
    
    
                          
—————————⦅語句⦆——————————————
     
gazon:[ガゾン](m) 芝、芝生、
géant:(形) 巨大な、
tilleul:[ティユル](m) 菩提樹、シナの木、  
dressaient:(3複半過去) < dresser (他) (まっすぐに)
    立てる
se dresser:(pr) (山などが) そびえ立つ、屹立する、
    立ち上がる  
platane:(m) プラタナス、スズカケ


.————————≪au point≫—————————————

aux pointes は筑摩書房版は「三角点」と訳されています.
「両の突端」と訳されている(集英社)ものもありまし
た.pointe (f) は「先端」という意味ですが、これを樹
木に属させて「切っ先をもつような巨木」とするか城館
の正面両端とするか、わかりません.とりあえず、集英
社版に従っておきます.


.—————————≪tilleul≫—————————————

菩提樹と訳されますが、仏様がその下でお覚りになった
樹木とは別です.一般に町のお花屋さんで、見かける菩
提樹は、このtilleul のことです.葉がまるく愛らしい木
です.これは中国原産なので、シナ科に属するシナノキ
になります.一方ブッダが覚ったほうの木はインドボダ
イジュと呼ばれ、クワ科イチジク属の大きな木です.で
すから、インド菩提樹のフランス語を知るためには、フ
ランス語のパーリ語辞典かサンスクリット辞典が必要に
なります.といっても私たちはそこまでしなくても、和
仏辞典に出ている figuier に「大きい」という形容詞をつ
けて figuier grand でいいんじゃないでしょうか.ちなみ
に「菩提樹」というインドの大木は、仏さまが覚られて
から命名されたもので、もともとはアジャパーラ樹とよ
ばれていました.サンスクリット語ではピッパラ、今の
インドではヒンディー語でピーパルなのだそうです.さ
らにピッパラもニグローダ樹もバニヤンの木と呼ばれて
います.残念ながら、熱帯樹木なので、日本では育たな
いようです.