「おとうと」(31)(フィリップ短篇集より)

    LE  PETIT  FRERE



—————————【31】—————————————————
  
  Elle  eût  voulu  rencontrer  quelqu' un  dans
la  rue  pour  pouvoir  dire:
  ——Je  ne  viens  pas  de  chez  moi  comme
vous  pourriez  le  croire. J' ai  couché  chez  le
père  Boutet.


—————————— (訳)—————————————————

 ジュリーは通りに出て誰かに出会って、そして
こう言いたかったのです.
 「私ね、そう思っているでしょうけど、自分の家から
出てきたのじゃないのよ.ブーテ叔父さんの家に泊まっ
たんだ.」
 

——————————《語句》——————————————————
          
eût voulu:(接続法大過去)ここでは条件法第2形として
      過去の非現実の願望を述べている.
   < avoir voulu ~:~したかった
      Elle eût voulu rencontrer quelqu'un.
      彼女は誰かに出会いたかった.
pour:(前置詞) ここでは「目的」を表わす.
   pour pouvoir dire:「言えるために」
      この日本語は変なので「言ってみたくて」
      と調整して訳します.じゃなぜvouloir を
      使わないんだ?それは dans la rue が暗黙
      の条件となっていて、通りでなら言える
      というニュアンスを持つからです.