アルルの女(3)
L'ARLÉSIENNE
アルルの女
————————【3】————————————————————
Pourquoi cette maison m' avait- elle frappé ?
Pourquoi ce portail fermé me serrait- il* le
cœur ? Je n' aurais pas pu le dire, et pourtant
ce logis me faisait froid. Il y avait trop de
silence autour... Quand on passait, les chiens
n'aboyaient pas, les pintades s' enfuyaient sans
crier... A l'intérieur, pas une voix *!
————————— (訳)—————————————————————
なぜこの家が私の心を打ったのか?なぜこの家の閉ざ
された門が私の心を締め付けたのか?それは
(たとえ聞かれても)言うことはできなかったであろう。
しかしこの建物は私をぞっとさせたのだった。
周囲はあまりにも静かだった・・・ここを通ると、犬も
吠えないし、ほろほろ鳥も鳴かずに逃げて行った。
(屋敷の)中は、まるで声がなかった。
————————《語彙と文法》——————————————————
frappé:(過去分詞)<frapper(他) 打つ、たたく、
(心を)打つ、強烈な印象を与える
portail:(m)正面入口、正門
aboyaient:(半過去3複、この主語はles chiens)
<aboyer (自)(犬が)吠える
pintades:(複数形)<pintade (f) ほろほろ鳥
(食用として家禽化もされている)
s'enfuyaient:(代動、半過去3複)
<enfuyuir (s') 逃げる、逃げ去る
* serrait-il: pourquoi のあとでは、複合倒置。
一般に、疑問副詞では動詞が直接補語を伴う場合には
複合倒置(代名詞に置き換えて倒置)が行われる.
直接補語を伴わない場合、
pourquoi 以外の疑問副詞のときは主語が名詞でも
この倒置は行ないません.
Où vont ces gens-là ?
(あの人たちはどこへ行くのですか?)
Où vont-ils ces gens-là ? とは言わない.
pourquoi のあとでは、主語が名詞なら複合倒置します.
Pourqui Jeanne est-elle si triste ?
(なぜジャンヌはそんなに悲しんでいるのですか)
* pas une voix Il n'y a を補って
Il n'y a pas une voix. として解釈する。
普通は不定冠詞が直接補語で否定形になると de に
変わるが、ここではun, une は冠詞ではなく、数詞と
して扱われる。そしてこの数詞が否定形の中では強い
否定の形容詞の機能が生じ、aucan, aucune より強い
働きを持つようになる。
—————————≪語法≫————————————————————
Ce portail fermé me serrait-il le cœur.
この閉まった門扉は(いつも)私の心を締めつけた.
身体の部分をあらわす名詞には定冠詞をつけるのがふつうです.
そしてこの場合所有者(この例では心の所有者)は間接補語,
(ここではme) で表されます.
英語既習者は
This closed gate always wringed me by my heart.
につられて
うっかりCe portail fermé me serrait-il mon cœur.
としないよう注意しましょう.
—————————≪文法≫——————————————————————
本文2行目、Je n'aurais pas pu le dire... は条件法になっ
ています.しかしこれは帰結節だけで、セットになる
条件節(~ならば)がみあたりません.とりあえず、
これは条件法過去なので、ここだけで訳すとなると、
「私はそれを言うことはできなかっただろう」ですね.
では、どうだったとしたら、なのでしょうか?
おそらく「聞かれたとしても」という文を補えば、
しっくりくると思います.条件節が省かれるケースは
多いので、読み手の方で補う練習も大切だと思います.
尚 Je n'aurais pas pu le dire. のle は中性代名詞です.
これは名詞を指すのではなく、事柄を指します.
「なぜ心が締めつけられたのかというそのこと」
を指します.