ハリエット嬢(119)
Miss Harriet
Maupassant


——————————【119】———————————————

Et  il  me  semblait  qu' il  y  avait  aussi  en  elle  un
combat  où  son  cœur  luttait  contre  une  force  incon-
nue   qu' elle  voulait  dompter,  et   peur- être   encore    
autre  chose ... Que  sais- je ? que sais- je ?


———————————(訳)————————————————

 そしてまた私は彼女の心の中には戦いがあるのだと感
じていました.ある知られない力に対して彼女はそれを
克服したくて戦っていたのです.そしてもしかしたら、
さらに別の何かに対して...それは神のみぞ知るところ.



..——————————〘語句〙———————————————
             
combat:(m) 戦闘、交戦、戦い
参考:bataille (f) 軍がかりの規模の大きな戦闘、会戦
   combat は局部的に勃発する小規模な戦いで、小
   部隊、あるいは個人間の戦闘:combats de rue
      市街戦、combat aérien / 空中戦、tenue de combat
      戦闘服           
luttait:(半過去3単) <lutter (自) 戦う
   lutter contre ~ / ~に対して戦う
   lutter pour ~ / ~のために戦う         
dompter:(他) (自然の力、感情などを)制御する、抑制する
   制圧する、屈服させる; 
   dompter des rebelles / 反徒を制圧する
que sais-je ?:私に何がわかるというのか?、
      神のみぞ知る
      * 昔、本屋さんに行くと「クセジュ文庫」という
   新書シリーズが並んでいましたが、あれは「学ぶ
   には自分を謙虚にしてこそ」という思いがあった
      のでしょう.


——————————≪文構造≫——————————————

2行目où はen ell (彼女の中で)を先行詞とする関係副詞
(フランス語文法では関係代名詞に含めます)とすると
訳し上げると論理的におかしくなります.ですからcombat
を先行詞と考える方が訳しやすくなります.文法的には
où の先行詞は「場所」なのでconbat を場所というには無
理があります.両者の矛盾を解決するには、訳し上げず、
「il y avait en elle un combat où ~ 彼女の中には戦いがあり
ました.そこでは~」と訳すのが自然でいいと思います.
 で、そこでは、どうしたのかというと、
 où son cœur luttait contre une force inconnue
そこでは彼女の心はある未知なる力と戦っていた
と言っています.
さらにこのune force には関係代名詞がついています.
「ややこしくなるから、これ以上つけないで!」
「お気もちはわかります.でも私たちの顔には目も鼻も
口もついていますが、これ以上つけないで、と叫んだら
耳を付け忘れてしまいます.あったほうがいいでしょ?」  

そういうことであったほうがいい関係文がこれ:
qu' elle  voulait  dompter
彼女が制御したいと思っていたところの

これをune force inconnue にぺちゃっとくっつけましょう.

une force inconnue qu' elle voulait dompter 
彼女が克服したかった正体不明の力

で、それがどうした?はい、それと彼女の心は
戦っていたと言っています.さらに、おそらくは
まだ別のものとも戦っていた、と言っています.

彼女の中ではそういう戦いがあることを当時若い
画学生だったレオン=シュナルさんが見抜いていま
した.