アルト・ハイデルベルク(77)


—————————【77】————————————————————
               
  Die Musikanten (stimmen die Instrumente).

 

.Fr. Rüder:  's ischt bei kein andern Wirth in Heidelberg, daß sie
.................. einen leibhaftigen Prinz fürs Semester zur Miethe bekomme.

 

Fr. Dörffel:  Bei kein andern.

 

.....Rüder:   Descht koi Frag*.——Wo ischt die Käthie ?

 

Fr. Rüder:  Käthie !

 

.....Rüder:  Sie soll helfa kommen. 's ischt alles drunter und drüber.

 

Fr. Rüder: (ruft).  Käthie ! Sollscht helfa komma !

 

....Rüder:  Es müsse die Tische naus geschafft werde.  's ischt
.................nix geschafft !  

 

Fr. Rüder: (ruft).  Käthie !


——————————(訳)—————————————————————
          
  楽団員たち、楽器の音合わせをしている.

 

リューダー夫人:公子殿下さまご自身にお部屋をお貸しする
.......................宿屋の主人は、ハイデルベルクで他にはありませ
.......................んわよ.

デルフェル夫人:他にはありませんわね.

......リューダー:それは今はどうでもいいよ、ケティはどこにいる?

リューダー夫人:ケティ!

......リューダー:ケティに手伝いに来させなくっちゃ. 
.......................もう全く、てんやわんやだ.

リューダー夫人:(叫ぶ)ケティ!来て手伝ってくれないとだめよ.

......リューダー: このテーブルは全部向こうへ出さないと.
........................ああ、何も手つかずだ.

リューダー夫人:(叫ぶ)ケティ!


———————— 《語彙》———————————————————————
              
der Musikant: {_en/_en}楽士、   
stimmen: [楽] 音を合わせる、(楽器を)調律する   
leibhaftig: (形)<述なし> 肉体をそなえた、
  人間の姿をした、この世に現れた、化身の
  権化の、 ② 実際の、本当の      
Miethe: <  Miete  → die Miete {_/_n ① 賃貸料}
    ② 賃貸借(契約)賃貸しと賃借りの両方の意味が
   ある.したがって連用する動詞も
  et⁴ zur Miete geben   ~を賃貸しする
    et⁴ zur Miete bekommen ~を賃貸しする
    二通り生まれる
   尚、bekommenが使われているのは
   (賃貸契約を)「得る」という点に立脚している
  ものと思います.             

Es ist bei kein andern Wirt daß sie
einen Prinz zur Miete bekommen. 
王子と賃貸契約するところは
他の宿主においてはありません.
 * daß以下が実際の主語,  
 beiは「~のところで」(3格支配ですが方言のせいか
 格語尾は脱落しています. なので私と同じ独検準備の方
 は元の型、keinem andern Wirt, もしくは keinen andern
 Wirten を想像してみましょう.)
*Descht koi Frag これも、南部のなまり言葉のようです.
 おそらくDas ist keine Frage. / それは問題ではない.
 の南部なまりかと思われます.訳出もそうしました.
drunter: (南部、オーストリア) → darunter  その下に
drüber: (南部、オーストリア) → darüber   その上に
's ischt alles drunter und drüber.  →
           Das ist alles darunter und darüber.
      上に下にの大騒ぎだ.
          ↓
           Es geht alles darunter und darüber.
      大混乱に陥っている.
naus: (南ドイツ)→hinnaus (こちらの内から)外へ       
nix = nichts            
geschafft: (過去分詞)<  schaffen (他) ①~を運ぶ
   ② (一定期限内に) 成し遂げる、やってのける
    成就する
    schaffen schaffte  geschafft
  ③ 創造する
  この動詞は ③「創造する」の意味の時は
    schaffen schuf   geschaffen
der Tisch: {_(e)s/_e} 机、テーブル


—————————≪ひとこと≫——————————————————————
   
 きょうは(そしてもしかしたら、この先ずっと)方言
  がぎっしりです.
  私はこの地に行った経験がないので、間違っているかも
 知れませんが、おそらく作者はこうした方言で、南部
 の人間の陽気さを演出させようとしたものと思います.

  この物語の書きおこしは、冷たい石の城の中でした.
 第二幕は、明るい南部の陽気さにうって変わります.

 それとええかげんな事を述べるついでに申し上げますと、
 ゲルマン語系の言葉は、南へ行くほど、語尾が脱落退化
 しているような気がします. 北へ行くほど、語尾保存が 
 しっかりしていて、アイスランド語などは、ゲルマン語
 の語尾をしっかり残していると聞いたことがあります.
  (よく知らないのに発言してすみません.)
    よく知らないついでに、もうひとこと:
 これを言語の冷凍保存の法則と言うのはいかがでしょう.