ハリエット嬢(86)
Miss Harriet
Maupassant



—————————【86】——————————————
   
  Serrée  dans  son  châle  à  carreaux,  l' air inspiré,  les
dents  au  vent,   l' Anglaise  regardait   l' énorme  soleil
s' abaisser  vers  la  mer.  
 

..—————————《訳》———————————————
       
 格子縞のショールに包まれ、まるで霊感でもを受けた
ように、歯を風にさらして、このイギリス人女性は巨大
な太陽が海に沈むのを見ていました.



.—————————〘語句〙——————————————
         
serré(e):(形、過去分詞) 体にぴったり合った、
  robe serrée à la taille / 体にぴったりしたドレス
  <serrer (他) (服などが)ぴったり合う、締め付ける
   窮屈だ   
châle:[ʃɑl](m) ショール、肩掛け   
carreaux:(m/pl) チェック、格子縞、碁盤目
   単数 carreau (m) 窓ガラス、タイル、化粧板、床石   
inspiré:(形) 霊感を受けた、
  <inspirer (他) (考え、感情などを)抱かせる      
l'air inspiré:霊感を受けた呈で、
dent:(f) 歯、牙
   se brosser les dents / 歯をみがく    
vent:(m)[ヴァン] 風
les dents au vent:歯を風にさらして   
Anglaise:(m/f) イギリス人、英国人
regardait:(単純過去3単) <regarder   
énorme:(形) 並はずれた、巨大な、  
soleil:(m)  太陽、日光
abaisser:(他) 下ろす、低くする、下げる、少なくする
  [料理] 麺棒で生地をのばす           
s' abaisser:(pr) 下がる、下りる、低くなる、落ちる
        Le terrain s'abaisse vers le sud.
        地面は南に向かって低くなっている.


—————————≪語法≫——————————————

l'air inspiré:霊感を受けた呈で、

「~で」ならば、それに対応する前置詞が必要なのでは?
そう、その感覚は大切です.しかし、なにもかも規則通
りやってしまうと、平坦な面白くない文章になってしま
います.前置詞を省く、というのは文に唐辛子を入れて、
ピリ辛にするようなものです.文法的な解説をすると、
これも一種の分詞節(分詞構文)でavoir の現在分詞
ayant が脱落したものと考えていいと思います.
ayant l'air inspiré 

—————————≪知覚動詞≫——————————————

知覚動詞 regarder
[見る][聞く]などの知覚(感覚)動詞が目的補語をもつと
その目的補語は不定詞を従えることができ、同時にその
不定詞の主語となる.

 l' Anglaise regardait l'énorme soleil s'abaisser vers la mer.
その英国人は海に太陽が沈むのを眺めていた.  

ただし副詞句がなく、単純な文構造の場合、語順は
主語 + 感覚動詞 + 不定詞 +目的格補語(不定詞の主語)
という語順になるのが普通です.
 l' Anglaise regardait s'abaisser l'énorme soleil.
その英国人は太陽が沈むのを眺めていた.