さすらいの青春(72)
———————————【72】———————————————
Il m'arrivait maintenant de les accompagner.
Avec Meaulnes, j'allais à la porte des écuries des
faubourgs, à l'heure où l'on trait les vaches... Nous
entrions dans les boutiques*, et du fond de l'obscu-
rité, entre deux craquements de son métier, le
tisserand disait :
≪ Voilà les étudiants ! ≫
————————————(訳)———————————————
モーヌは、今や、仲間の群れから出て、私のところ
にやって来た。モーヌと共に私は、牛の乳しぼりの
時間に、よく町はずれにある厩舎の門扉へ行ったり
していました*。いくつか布地店にも入ったりしました。
薄暗い店の奥から、機織り機の、ふたつがさがさ音
の合間に、織工が言ったものでした。
「学生たちだぜ。」
————————————《語句》———————————————
2行目j'allais は半過去なので、単に「行った」と訳すと間違いです。
これは過去の習慣を表すもので、繰り返し行ったことになります。
————————————《語句》———————————————
(使った辞書:主にクラ仏4版)
faubourgs:(pl) <faubourg (m) 郊外、場末
écuries:(pl) <écurie (f) 厩舎、馬小屋
vaches*: (pl) <vache (f) 雌牛.
trait:(半過去3単) <traire (他) (の乳)を搾る
boutiques:(pl) <boutique* (f) ① 店、売店
②(高級ブランドの)既製服の店
ここでは ①
boutique de boulanger / パンの店
obscurité: [発音注意bは清音:オプスキュリテ](f) ① 暗さ、闇
② 不明瞭、あいまいさ、不明の箇所、
③ 世に知られないこと
craquements:(pl) <craquement (m) ばりばり、かさかさ、みしみし
(物が折れたり、破れたりするときの乾いた音)
métier: (m) 職業、仕事、織り機、編み機
tisserand: <tisser (v/t) 織る
métier à tisser: 機織(はた)
* 一般に牛は bœuf, 雄牛は taureau, 子牛は veau.
乳牛は vache laitière, もしくは vache à lait
牛の乳をしぼる:traire les vaches
牛乳:lait de vache
* boutique 「店」と訳したものの。すっきりしないので、
他の訳本を開いてみた。 boutiqueは下記の通りに訳されていました。
① みすず書房:工場
② 旺文社文庫:工場
③ 角川文庫 :機織り場
④ 岩波文庫 :(機織り職人のいる)店
⑤ 講談社 :職人の仕事場
どこにもパン屋のような「店」と訳した本はありませんでした。
一方、仏和辞典には、語句欄に挙げた通りの意味しかありませんでした。
そして、つくづく思いました。「さすがプロの翻訳家は違うな」と。
辞書に載っている範囲内ですますのが、私たち素人。玄人は、辞書にない
意味を探り出し、完璧な訳に仕上げる・・・すごいわ!
まあ、しかし、私としては、あまり出すぎた真似はせず、例によって
辞書と首っ引きで訳しました。