アルト・ハイデルベルク(112)
    𝓐𝓵𝓽 𝓗𝓮𝓲𝓭𝓮𝓵𝓫𝓮𝓻𝓰 CXII


————————————【112】——————————————————

Käthie:I komm schon ! (Sie stützt die  Ellbogen auf Lutzens Tisch.)
       Im Leben hab i kan wirklichen Prinzen gesehen.  Aber den
       Kaiser hab i gesehen in der Wienerstadt.  Lieb hat er ausgeschaut.

 

Lutz:(streng.) Weichen Kaiser ?

 

Käthie:Den Franzel.  I bin nämli von Linz, von weit von dahier.

 

Rufe:Käthie !

 

Käthie:Ja ! Ja ! Ja ! —Hat er blaue Augen ?  Ist er groß ?  I kann's mi
       net vorstellen, wie er ausschauen wird.

 

Lutz:Aufdringliche Person !

 

Schölermann:(spring auf, hastig). Se. Durchlaucht ! (Man hört Wagenrollen.)

 

Lutz:Wo ?!

 

Käthie:Marand Josef !!

 

Sshölermann:Er kommt !

 

Lutz:Mal die Gläser da weg !

 

Käthie:Jessus die Schürzen ! Bind mir doch einer die Schürzen ab !
        (Rennt an die Hausthür.) Der Prinz ! Der Prinz !

 

Lutz:Treten Sie zur Seite, Schölermann, so, ——Beide (stehen mie
       abgezogenen Hüten).


————————————— (訳) ————————————————

ケティー: すぐに行きますわ.
      (ケティーは両肘をルッツのテーブルについている)
      私ね、王子様になんてこれまでお会いしたことは一度もないのよ.
      皇帝様にだったら、ウイーンの街でお目にかかりましたわ.

 

ルッツ : どの皇帝をだね?

 

ケティー: フランツェル皇帝様ですわ.実は私はリンツの出身で、ここからは
       とても遠いんですの.

 

呼び声 : ケーティー!

 

ケティー: はーい!——殿下は青い目の方かしら? 背はお高くて?
          どんな風なお方かしら?私、想像がつきませんわ.

 

ルッツ : 厚かましい女だ!

 

シェーラーマン:(慌ただしく飛び上がって)殿下様です!(車輪の音が聞こえる)

 

ルッツ :  どこかね?!

 

ケティー:  まあ、大変!!

 

シェーラーマン: ご到着でございます.

 

ルッツ : とにかくグラスを片付けなさいよ!

 

ケティー: あら困ったわ.このエプロン.誰か私のエプロンを
      はずして頂戴!(戸口に向かって走る)王子様だわ、王子様!

 

ルッツ : わきに寄ってなさい、シェーラーマン君、そうだ.ふたりともだ.
     (ふたりとも帽子を脱いで立つ)


—————————————《語彙》———————————————

stützt: (3単) <stützen (他) ① [Aを] 支える 
       ②[体の一部AをAに]  あてがう、つく
der Ellbogen:(同尾式) ひじ
   die Ellbogen auf den Tisch aufstützen. / 机にひじをつく
        *  auf/stützen も[ひじなどを] つく、という意味です.
Im Leben hab i kan wirklichen Prinzen gesehen.:(ケティーのオーストリア訛り)
     = Im Leben habe ich keinen wirklichen Prinzen gesehen.
     = これまで一度も本当の王子様に会ったことがないのよ.  
     * 語感が私にはわからないのですが、ほのぼのとした感じだそうです.
Wienerstadt:Wiener Stadt をつづめたもの.Wienerはこのままで格変化しない.
ausgeschaut:(過去分詞) ausschauen [ドイツ南部、オーストリア] ~のようにみえる
Lieb hat er ausgeschaut.:(ケティーのセリフ)= 皇帝様はお優しく感じのいい方でしたわ.
   * ausschauen は通常、様態を表す形容詞を従えます.
streng:(形) 厳しい、厳格な、ここでは「そっけなく」と訳しました.
   (理由)streng にはその意味もあり、ルッツはケティーを目ざわりに思って
       いるようだから.
I bin nämli von Linz, von weit von dahier.:(ケティーのオーストリア訛り)
   Ich bin nämlich von Linz, weit da von hier.
      実は私はリンツの出身で、ここからとても遠いんですの.
I kann's mi net vorstellen, wie er ausschauen wird.:(ケティーのオーストリア訛り)
I kann es mir nicht vorstellen, wie er ausschauen wird.
   どんなふうなお方か、私、想像がつきませんわ.   
vorstellen:(他)①紹介する、②想像する、思い浮かべる、③発表する
      ここでは②想像する、思い浮かべる  sich³ + Akk + vorstellen    
aufdringlich: (形) あつかましい、押しつけがましい、
Aufdringliche Person !:(ルッツのセリフ) あつかましい女だ!
    Person(f) は「人」以外に「女」とか「女の子」という意味があり、
   この場面のように、嫌悪感が伴う場合は、こちらの意味になることが
   多いようです.(逆に好感を持ったときにも使います)
   eine reizende Person チャーミングな女の子
   eine leichtfertige Person 軽はずみな女
auf/springen:(自/s) 飛び上がる               
hastig:(形) 大急ぎの、性急な
die Wagenrolle:(nタイプ) 車輪の音     
Marand Josef :(間投詞) Maria und Josef の訛りで、驚いたときの声
      わあ、大変!         
Mal die Gläser da weg !:グラスを片付けろ!
      mal は命令文に添える副詞で、意味は「おいちょっと」「ねえってば」
   「ほら~しなさいよ」.この文に動詞はありませんがweg が「かたずけ
    て」という意味の副詞.
      da は直前の die Gläser を修飾し、「そこのグラス」
    全体で、「そこにあるグラスを片付けなさいよ」となります.
    どのグラスかと言えば、ケティーが無神経にルッツの前に置いた複数の
      空のビールジョッキ.          
Jessus die Schürzen !:わあ、どうしよう、エプロンを(したままだわ)!
      ケティーの驚いたセリフ.Jessus はJesus の訛りで、驚いたとき、困ったとき
    になど出る声.そういうときに神の名が口に出る、ということは、「助けて」
   という気持ちがあるからでしょうか.    
ab/binden (他) (Akkを) ほどいてはずす
   ケティーのセリフ、Bind mir doch einer die Schürzen ab !  の mir  は
   奪格の3格と呼ばれるもので「~から」と訳します.「私から」です.
   doch は「~だってば」
      einer は「誰か」
   全体で、「誰か私のエプロンをはずして下さいな!」
Rennt an die Hausthür: 家の戸口に向かって走る.
   rennen an ~ には「~に走ってぶつかる」という意味もありますが
   ドタバタ喜劇ではないので、ここでは単に「戸口に駆けこむ」
Treten Sie zur Seite: 脇に寄りなさい.(zur Seite treten / わきに寄る) 
Beide:ふたりともだ.(ルッツが自分自身を入れてふたりともと言っています)
stehen mit abgezogenen Hüten:(ふたりとも)帽子を脱いで立つ


———————————≪文法≫———————————————————

[mit + A+ B]:mit の後に単語が2つ以上来ると、それらが文構造を
もつことがあります.
① mit + 主語要素 + 述語要素の構造: AがBであるところの~
②  mit + 述語要素 + 補語要素の構造: AをBにして~
 ここでは②の「帽子を」(A)+「脱いだ状態で」(B)