星の王子さま(15)

 南太平洋・ブーゲンビル島上空で、日本の連合艦隊司
令長官、山本五十六元帥が乗った一式陸攻を襲ったのが、
P-38ライトニング機だった.昭和18(1943)
年4月18日のことだった.
 双発エンジンの片方だけでも飛行でき、航続距離が長
い双胴の戦闘機.ロッキード社は終戦までに1万機も生
産した.
   人々は、その中の1機を捜し続けた.なぜなら、そこ
にアントワーヌ・ド・サンテグジュペリ=当時(44)
が乗っていたからである.
 「行方不明と死亡の間には、おそろしく大きな違いが
ある.」
 サンテグジュペリのニューヨーク亡命中に親交があっ
たアン・リンドバーグさん(大西洋横断飛行に成功した
チャールズ・リンドバーグ氏の妻)はこう書いて悲しん
だ.
 「(死んだのであれば)死んだ真の友人をつくり出す
ことができる. ”消息を絶つ”というのは、ここにも
かしこにもいないし、死んでも生きてもいないし、宙に
浮いていて、蒼白く、幻想的で、顔がなく、ダンテが天
国と地獄をさまよっているとして描き出した、かの魂た
ちのようだ」(『戦時の記録3』山崎庸一郎訳、みすず書
房)
  フランスでは、大戦前の作家としては最も読まれ、教
科書にもなっているが、その評価は手放しではない.第
二次大戦中、サンテグジュペリとシャルル・ドゴール将
軍(後のフランス大統領)が反目したからだ.



                   【12】
Quelque chose  s'était cassé  dans mon moteur.   Et
comme je n'avais avec moi ni mécanicien, ni passagers,
je  me  préparai  à essayer de réussir, tout seul,  une
réparation difficile.  C'était pour moi une question de
vie ou de mort.  J'avait à peine de l'eau à boire pour
huit jours.   
 
                –––––訳——
エンジンのどこかが故障していたのだ.だが私には
技術士も乗客もいなかったので、私は難儀な修理を
たったひとりで成功させようと準備をしていました.
それは私にとっては死活問題でした.私には、1週
間分の飲み水しかありませんでした.



                   《語句》     
moteur [発音モトゥール](m) エンジン    
cassé (過去分詞)<casser (他) 壊す、割る
  ② 使えなくする、壊す、駄目にする
本文では、se casser (代動) 壊れる
essayer (他) (性能などを) 試験する、テストする
      試みる、試着する、試食する、試してみる
essayer de + 不定詞 ~しようと試みる、努める
réussir (自/他) 成功する  (à に) 成功する
    (を) 立派にやってのける      
à peine [否定的に] ほとんど…ない
      [肯定的に]  かろうじて、やっと
   à peine de l'eau à boire pour
   ぎりぎり一週間分の飲み水

 
               ≪ひとこと≫
Quelque chose  s'était cassé  dans mon moteur. と、
いきなり日本語と表現様式が違う文、やっつけられた
感じです.日本語では「エンジンの調子がおかしい」
「エンジンが壊れた」と言いますが、フランス語で
は、「何かがエンジンの中で壊れた」となる.
フランスではエンジンは壊れない.何かが壊れて
エンジンに影響を及ぼす.