18**年。長崎。


誰も知らないことだけど、
私は、その昔、オランダ語の通訳をしていた。
オランダおいねは、私の親友だった。
村田蔵六(大村益次郎)の教室で、
私たちは、オランダ語を学んだ。


先生  : イック ベーン ヤパネル。

みんな : イック ベーン ヤパネル。

先生  : ユー ベント シネース?

みんな : ネー。 


そのころ、私は、教室では、
みんなから、

「山田オランダ」

と呼ばれていた。

教室の休みの日には、よく、みんなと、
出かけた。

船から出入りするオランダ商人との、
通訳を買って出たりした。


船は、蒸気船もあれば、帆船もあった。


  「ああ、あの船は、アムステルダムから
   来たんだ。運河が発達している町なのよ。」


  「そういえば、聞いたことがあるわ。
   王宮のある町なのだわ。」


  「まあ、おいねったら、よくご存じね。」
 

そんな風に、休日を過ごしていた・・・


そういう時間が過ぎていた。

玄関チャイムが鳴るまでは・・・・、



ピンポ~ン

新聞屋さん: 山田さ~ん、
       売り売り新聞で~す。集金に来ました。



   強制的に、現実世界に引き戻される
   山田であります。
  でも、本当に、もしかしたら、前世は・・・・、


  いろいろ、思ってみたりするが、
  証拠集めをすることにした。

  まず、

  前世が、オランダ語を
  使っていたのなら、今でも、わかるはず。

  そこで、白水社の、


   『エクスプレス・オランダ語』


  という本をパッと開けて、眺めてみた。

  どうだ。前世の記憶が、よみがえったか。
  どうだ?


  うーん、側頭葉にも
海馬にも、記憶の断片がない。
 
  どこ?どこに行ったのだ?私の記憶!

  そして、いつも、
  そのまま、普通の生活に戻ってしまう
  のであります。


  山田 錦