ある日ヨンジェはこう言った
「ヒョン!今日は一緒に料理しませんか?」
両手に野菜を持ってニコニコ笑顔で問いかける。俺には眩しすぎるけど
「無理。1人で作れよ」
料理なんてしたことないし
「えー……良いじゃないですか、少しぐらい……いっつもヒョンのお世話してあげてるでしょ?」
ヨンジェは俺の腕を掴んで揺さぶる。世話って、まるで俺が子どもみたいじゃないか
「世話って……わかったよ手伝うから」
「やった!」
大袈裟にガッツポーズをとり、ヨンジェはキッチンへと向かう。今までだったら本気でめんどくさいと思っていただろうが、今はそんな事1ミリも思わない。むしろ、そんなヨンジェを微笑ましく思う自分がいた
わざわざエプロンを着るヨンジェ
そこまで張り切らなくてもいいのに、と少し呆れ気味に溜息をつく。
「ヒョンも着てください!」
抵抗するのもめんどくさくて、されるがままに、俺はエプロンを着せられていた。
するとヨンジェは
「わー、ヒョン、意外に似合いますね」
なんてニコニコしながら言うからやっぱり敵わないな、と思った
「じゃあ、ヒョンはこの人参を短冊切りにしてください」
「短冊切りって何だよ」
「それも知らないんですか!?仕方ないな……」
そう言って、ヨンジェは人参を『短冊切り』という方法を実際にやって見せてきた
「はい、やってください」
包丁を無理矢理握らされ、ヨンジェは俺の手に自分の手を重ねた。触れている部分がどんどん熱を帯びていくのが分かる
「こう、こうです」
「わかったから」
そう言って握られていた手を離させた。するとヨンジェは不思議そうに首を傾げた後、ま、いっか と言って他の作業に移りだした
「……ってか何作るんだよ」
ずっと気になっていた事
「カレーに決まってるじゃないですか!」
自信満々なように言ったヨンジェだが……ちょっと待て。
「カレー?」
「はい!あ……もしかして嫌いでしたか」
ヨンジェは包丁を動かす手を止めて不安そうに俺を見上げた。……そうじゃなくて
「カレーだったら、人参もうちょっと大きく切るだろ」
「いいんです! 文句言ってないでちゃんと仕事してください!」
ヨンジェは頭の上に怒りマークでもついているようだ。本当に分かりやすい奴だな
「短冊切りが一番良いんですからね!」
短冊切りの人参、カレー
少し頭がズキッと痛んだ気がした
大学の宿題にしろ、料理にしろ、何をするにしろ、何故かしたことのあるような既視感に襲われる。……これは何なんだ?
それにヨンジェと居ると、ただただ毎日が楽しくて温かい気持ちになるのだ。そんな権利俺にはないはずなのに ……
犯罪者の俺には無いはずなのに。
ヨンジェは、俺の本当の姿を知らない。そんなヨンジェが、俺の本当の姿を知った時の事を考えると……怖くてたまらないのだ
ヨンジェが俺に優しくする度に 俺は胸が苦しくなるんだ。ヨンジェに嘘をついているようで
俺は、『犯罪者』なのに
ヨンジェとの距離が近づくたびに俺は、ヨンジェと一緒に居たいと思う度に俺は、真実を言えなくなる。離れなきゃいけない、そんなこと分かってる。アタマでは分かってんだよ、全部。
「ヒョン?一緒に映画見ましょうよ!」
ほら、こうして手を引かれるだけで心臓が跳ねてる。どうやら俺は、重大なことに気づいていなかったようだ。離れられない理由はもう一つ
ヨンジェの事が、好きだからだろう