「実は僕、昔 兄がいたんです」
ヨンジェはぼつりぽつりと言葉を漏らしていく。俺たちは、今まで自分たちに遭ったことを全て話すことにしたのだ。俺はヨンジェと食卓に向かい合って座った
「でも……僕が幼い時に亡くなったらしくて。幼かった僕は、お兄ちゃんの事覚えてなかったんです」
ふぅ、と一息つきヨンジェはマグカップに注いであるココアを飲んだ
「それで僕は一人っ子としてずっと育てられてきました。それがすごく寂しくて……お兄ちゃんの事は覚えてないはずなのに、何故だかヒョンを見た時にどこか見た事がある気がして。お兄ちゃんなんじゃないかって。勝手に思ったんです。」
マグカップを肘をついたまま手で包み込み、手を温めるようにしながらヨンジェは続けた
「最初は、正直ヒョンをお兄ちゃんと重ねてたんです。お兄ちゃんだったら、こんな感じなんだろうなーって。」
そしてマグカップを置き、えへへと笑うと
「でも、途中からそうじゃないなって思って。なんかヒョンの事考えるとモヤモヤして、何だろうなーって思ってたんです。そしたら初恋の時と同じ感覚になって。あぁ、僕はきっとヒョンが好きなんだって」
そう聞いたとき、何かが俺の中で切れた気がした
「僕は本気です」
そしてもう、全てを話さなくてはならない
そんな気がした
「俺も……話さなきゃいけないことがあるんだ」
―――
無い、何で無いんだ?
絶対この中に、事件の真相はあるはずなのに。
必死に棚からファイルを取り出しては戻し、取り出しては戻しを繰り返す。自分でも狂気じみていると思う。でも、僕は続ける。何が何だろうが、見つけなければならないのだから。
「あ、先輩どうしたんですか?」
突然、後輩のべムべムに話しかけられる。僕より少し高い身長に、セットされた髪の毛。それとは対照的に、少しまだ幼さを残している顔立ち。見た目はチャラチャラしているが、なかなかやり手の新米刑事だ。僕も新米といっちゃ、新米なのかもしれないが。
許可がないと入れないこの部屋に何故入ってこれたのだろう。あぁ、きっと彼は上司の信頼が厚いのだろう。べムべムとはよく話す仲だ。お互いに深入りしようとはしていないけど
「何もないよ」
表情を整えて、僕は笑顔を作った
「いいですよ、僕も手伝います。先輩は他の刑事とは違う。……何か 深ーい理由があって刑事になったんでしょう?その笑顔にも裏がある、違いますか?」
べムべムは全てを見透かしているようだ。さすがやり手だ。べムべムはお互いに踏み込まなかった境界線を越えようとしている
「深くは聞きませんけど、先輩の捜しているものは何かだけでも教えてほしいです」
べムべムの事は嫌いじゃない。でもお前はこれ以上僕に踏み込んではいけない。誰も頼らないと決めたのだから。
「いや、1人で捜すから大丈夫だよ。今日はもう上がりな?」
ジェボムの事ならなおさらだ。僕が刑事になった理由?そんなの誰にも知られなくていい。誰の協力もいらない、誰にも干渉されたくない。僕は自分の力で答えを見つけ出してみせる
―――
「全部話すから。お前が離れたければ離れていいから」
するとヨンジェは少し深刻そうな顔でコクリと頷いた。スゥっと息を吸い込んだ後、俺は話を始めた
「まず、俺の名前はジェボム。イムジェボムだ。歳は24」
するとヨンジェは目を輝かせて、
「ジェボム?ジェボムヒョン!!」
純粋無垢な瞳で俺を見つめた。その綺麗な瞳に俺が映されているんだと思うと、何とも言えない気持ちになる
「俺、実は記憶障害があるらしいんだ。昔からみたいなんだけどさ。だからよく忘れるんだ、全部。人の名前もそうだし、自分の家の場所もそうだ」
ヨンジェは何とも言えないような顔でこっちを凝視している
「それと……」
あぁ、言うのが怖い。怖い、怖い、怖い……でも、言わなきゃいけないんだ
「俺は、犯罪者だ」