次の日俺はヨンジェの働いている花屋に足を運ぶことにした。花屋に行くなんて柄じゃないけど、今は特別だ。何の花を買おうか。なんて考えているともう花屋は目の前に。緑の看板には洒落た字体で「flower shop」と書かれている。
店に入ると鳴り響くベルの音。店内は茶色で統一されていて、レトロな雰囲気だ。
「いらっしゃいませ……ってジェボムヒョン!?」
出迎えてくれたヨンジェは緑のエプロンを着ていて、いかにも好青年といった感じだ。驚きを隠せないのか、その場であわあわとしている。その姿に、どうしようもないくらいの愛しさを感じた
「ヨン……」
「お!噂のジェボムさんか!?」
するとその近くの棚からひょこっと顔を出してきた男が一人。凛々しい眉毛にきりっとした大きな瞳、整った顔立ちだ。正直あまり花屋に勤めていそうな感じはしない。
「あぁ、すみません、急に出て来ちゃって。僕はこの花屋の店長やっている、ジャクソンと言います」
満面の笑みで俺に握手を求めてきたジャクソンという男。歳はきっと俺の方が上だろう
「いつもヨンジェがお世話になっています」
差し出された手を、俺は強く握った。しかしジャクソンはぴくりとも表情を変えない
「いえいえ!ヨンジェのおかげでこちらも助かってますんで!」
そして彼はギュッと強く俺の手を握り返した。相当な強さだがこれは、故意ではないだろう。不思議とジャクソンと喋ってもあまり悪い気はしなかった。なんだ、心配した俺がバカだった
「ヒョン、来るなら来るって言ってくれれば良かったじゃないですか」
ヨンジェは分かりやすく頬を膨らませた
「来たらいけなかったか?」
「そういう事じゃないですけど……」
そう言ってどもるヨンジェ
「お2人とも仲が良いですね!」
ジャクソンは曇りのない笑顔でそう言い、せっせと花壇を運んでいく。その言葉を聞いて少し頬を赤らめるヨンジェ
「あはは、ありがとうございます」
それにしてもジャクソンはずっと店の中を動き回っていて忙しそうだ。俺がいたら余計邪魔になっている気がする
「俺がいたら邪魔じゃないですか?」
「いえいえ!大切なお客様なんですからそんなこと思う訳ないじゃないですか!今日はゆっくり見て行ってください!」
ジャクソンはまた太陽みたいに眩しい笑顔で笑った。ヨンジェの周りの人は、何でこんなにも眩しい人ばかりなんだろう。
何でこんなにもみんな温かいのだろうか
外から見たら小さく見えるこの店も、中に入れば意外に広いもんだな、なんて思ったり、この花が綺麗だな とか、柄でもないけど思ったり、俺にとっては全てが新鮮だった
一つ、目に留まった花があった。するとヨンジェはいつの間にか俺の隣へ
「この花、何て名前?」
俺が問うと
「えぇ!ヒョン、そんなのも知らないんですか!?薔薇ですよ、薔薇」
と。薔薇、か。過去に聞いた事があるかもしれないが、ほとんど過去を覚えていない俺には分からなかった
「俺は聞いた事ないけど」
「へー。ちなみにどの色が良いんですか?」
「俺は白かな」
可憐で美しい花。俺には無いものだから尚更素敵に見えたのかもしれない。気づけば三本ほどの束を手に取っていて。咄嗟に思った
「家に飾ろうか」
提案してみると、パァっと目を輝かせたヨンジェ
「はい!そうしましょう!」
早速俺はレジに向かい、財布を取り出した。何故か分からないが、俺は働いていないのに多額のお金を持っていた。俺が犯した犯罪は強盗?なんて思ってみても、何か違う気がするのだ