「ヨンジェ……」
部屋のドアを開けると隅っこに体操座りしていたヨンジェ。
「おかえりなさい……ヒョン」
「ほら、買ってきたよ。お前のために……」
そうして花をヨンジェに差し出す。花瓶をとってこようと、俺はその部屋を出た。そして花瓶に水を入れているときに聞こえた物音
物音の方へと足を進めると、部屋の窓から逃げようとしているヨンジェが見えた。何が起きたのか、いつの間にか花瓶は割れていた。破片が床全体に散らばる。ヨンジェは怯えたような目でこちらを見つめている。
行くな、ヨンジェ、どこにも
ガラスの破片なんて気にもせず、俺はヨンジェの所まで歩いた。逃げようとすれば逃げれたはず、それなのに逃げなかったのは何でだ?
「ヨンジェ……行くなよ?どこにも……」
お前なしじゃ生きていけないんだ
「違う、間違ってる……ヒョン……」
諦めたのか、ヨンジェは窓の側の棚から降りた。
「お前がいなくなったら、俺は死ぬよ」
いつの間にか赤く染まっている床。あぁ、破片を踏んだせいで血が出ていたのかもしれない。そんなのどうでも良かった。痛みさえ感じなかった。
ただ心にあるのはヨンジェ、お前の事だけ
「お前なしで、どうやって生きていけばいいんだ?大切なものなんて、お前以外何もないのに。お前以外、いらないのに」
いつの間にか醜くゆがんだ愛の形。
「なぁ、ヨンジェ。お前は俺を愛してる?」
「……」
「なぁ……答えてくれよ」
ヨンジェは大粒の涙をこぼし、俺から座りこんだまま後ずさろうとする。しかし後ろはすでに壁。もうヨンジェに逃げ場所は無い。どんどん距離を詰めていく俺。どんどん近づく距離。それなのに俺とヨンジェの心はどんどん遠ざかるばかり。
俺はどうするべきなんだ?
「ヨンジェ」
目の前でうずくまって泣いているヨンジェを見下ろす。そして無理矢理ヨンジェを立ちあがらせ、肩を掴む。
「僕は……」
ヨンジェの顔を覗き込むと、今まで見たことも無い顔で俺を鋭く睨んだ。そして力強く俺を押し返した。今まで俺にそんな態度をとったことが無かったヨンジェが。
「こんなヒョン嫌だ!嫌い嫌い嫌い!!ヒョンなんて、大っ嫌いだ!!」
聞きたくもない言葉を浴びせる。俺に向かって。『嫌い』なんて一番聞きたくない言葉を。
「嫌い?」
「もうヒョンなんて嫌いだ!!」
ヨンジェは俺の胸を小さな拳で何度も殴る。
「嫌いだ嫌いだ!!」
何度もその言葉を言い続ける。
「嫌いなのに……」
ヨンジェはまた地面にうずくまる。
「昔のヒョンに戻ってよ……優しくて頼れるカッコいいヒョンに戻ってよ……」
子どものように泣き続けるヨンジェ
「こんなのジェボムヒョンじゃないよ……」
俺の足を掴み、揺さぶる。
地面にはガラスの破片と涙と血。
何もかもぐちゃぐちゃだ。
俺の心もヨンジェの心も。
今の状況も俺の過去もヨンジェの過去も。
「ヨンジェ……」
少し我に返る俺。でももう手遅れだ。
「こんなにヒョンは酷いのに好きだなんて、きっと僕も狂ってるんだね」
泣きながらヨンジェは自嘲気味に笑った。そして俺を見上げる。
「ヒョンのせいで何もかも嫌だよ」
あぁ、もう俺は戻れないところまで来たんだ。
「ごめんなヨンジェ。それでも俺はお前を愛するのを止めることなんてできないよ」
床にしゃがみ、ヨンジェの涙をふき取る。
「お前がどんな言葉を浴びせようとも俺はお前を愛してる。そうやって顔をぐちゃぐちゃにして泣いてても愛おしいよ。」
俺はそのままヨンジェを抱きしめた
「ごめんなヨンジェ。愛してる」
しかし、ヨンジェの小さな手が俺の腰に回ることはなかった。