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「にーちゃ!ほらみて!かわいいおはな!」
「また花摘んできたのか?……それ、なんて花かわかるか?」
「んーとね!わかんないなぁ……」
「それ、多分スズランって花だよ」
「そうなの!?にーちゃはなんでも しってるね!」
「――がいつも色んな花を持ってくるから覚えちゃったんだよ。」
「なまえも?」
「――が喜ぶから調べてるんだ」
「にーちゃすごーい!」
「ありがとう」
「またおはなのこと おしえてね!」
「仕方ないなぁ……」
ハッと目が覚める。汗でぐっしょりと濡れた枕。いや違う。涙で濡れているのかもしれない。
何なんだ、今の夢は。
夢のはずなのに、夢ではないような感覚。
何なんだよ、これ。
顔を洗おうと思って布団をめくり、病室を出ようとしたときジニョンが病室に入って来た。
「ジェボム、おはよう」
懐かしい笑顔を見せたジニョン。
片手には花が握られている。
「ジ、ニョン……」
ジニョンの事を思い出してから初めての対面。久しぶり過ぎて、俺はどう話したらいいのか分からなくなる。
「思い出したの!?」
ジニョンはここが病院であるという事を忘れているのか、目を大きく見開いて大声を出した。
「ジニョン、声が大きい」
あぁ、この感覚。何だかすべてが懐かしく思えてくる。するとジニョンの強張っていた表情が解けていった。そして目には涙が浮かびだす
「やっと、やっと思い出してくれたんだね」
「あぁ……今まで……いや全部ごめん。悪かった……」
申し訳なくなって、俺はジニョンに謝る。
「いいんだ、ジェボムが無事だったら、それだけで良いんだ」
綺麗な雫を一つ一つ零していく。新品同様に見えるそのスーツには痕が残った
「ごめん……」
「僕、嬉しいよ。またジェボムと逢えて……僕ね、刑事になったんだよ?」
ジニョンはポケットから警察手帳を取り出した。ジニョンが、刑事?あんなに大人しくて引っ込み思案だったジニョンが?
意外でたまらなかった。
「そう……なんだ」
「うん。意外とか思ってるんでしょ?」
「あぁ」
少し笑って、やっぱりそっかーなんて言うジニョン。その姿が、中学時代のジニョンの面影と重なる。
「ジェボム、落ち着いた?」
心配性なところも、昔と変わらないな
「ん、あぁ、この前よりは大分マシになったよ」
それからジニョンは他愛もない日常の話をたくさんしてくれた。
「近くにあるコンビニの店員さんが……」
「上司がさぁ……」
「最近はジョギングにハマってて……」
とか。それを聞くだけで不思議とジニョンが今までどうやって生きてきたのか分かった気がした。
「良かった、ジェボムがまた笑ってくれて」
またあの時みたいな優しい笑みを浮かべてジニョンは言った。昔からずっと変わってないな。優しいところも気遣いができるところも
少し話が途切れた時、ジニョンはいきなり暗い表情になり肩を落とした
「どうした?」
「ジェボム……本当は伝えなきゃいけないことがあるんだ。」
意を決したようにジニョンは真っ直ぐで濁りのない瞳で俺を捉えた。
「なんだ?」
「いきなりでビックリするかもしれないけど……ジェボムは、犯罪なんて犯してないんだよ。」
キィィィィィと、耳鳴りが聞こえだす。
「ジニョン?俺は犯罪を犯したから……」
「違う。ジェボムは犯罪なんて犯してない」
次は鋭い目でジニョンは俺に訴える。
「違う、違う、俺は……」
苦しい。その瞬間、ベットサイドテーブルにばら撒かれた資料たち。そこにはいくつもの新聞記事のスクラップや、文字が羅列されている紙たちが
「何だよ、これ……」
「調べたんだ、全部。」
何が何だか分からなくなる。
「何……だよ」
一枚の新聞記事を手に取った。
『息子に罪を擦り付けたまま何年も逃走』
そう書いてある記事
キリキリ、キリキリ。
感じたことも無いような痛みたちが俺を襲う。
その痛みを抑えながら、記事に目を通そうとしたその時
俺は、全てを思い出した。
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