「もう全部めちゃくちゃだ……」
嗚咽を漏らしながらジェボムはゴシゴシと涙を拭った。すると突如顔を上げ、こう言う。
「ヨンジェは?ヨンジェに会いたい」
僕も正直早く彼に合わせてあげたい。でもまだヨンジェ君の心の準備が整っているか分からないから会わせてやることができないのだ。
「まだ、ダメなんだ。ごめんな、ジェボム。」
僕だって会わせてやりたい。
でもまだ駄目なんだよ。
「そんな、俺にはヨンジェしか……」
「ごめん」
そうしてまたジェボムの頬を雫が伝う
「そうだよな……でもヨンジェが生きてるってだけで十分だもんな」
今さっきとは打って変わって弱弱しい笑顔を見せたジェボム。会うのはヨンジェ君の気持ちが整うまでの辛抱だ。
「うん」
「ごめん、取り乱して……」
「いいんだ」
逆にこんな話を聞いて取り乱さない方がおかしい。新聞の記事や、ジェボムの会社で働いていた元従業員の話、情報屋の情報。
全てをまとめたらこんな話だった。あたかもシリアスなドラマのようだ。正直に言うと僕だって動揺した。刑事をやっていてもここまで混んだ話を聞いたことは無かったのだから。
ただただ時だけが過ぎ、僕はもうこの病院から出ないといけなくなった。
「ジニョンごめんな、ありがとう」
去り際にジェボムは弱弱しく呟いた。
「うん」
「本当にありがと……」
その言葉が妙に虚しく病室に響く。聞き終わる前に僕は病室のドアを閉めた。
ジェボム、お前は何も悪くないのにヨンジェ君に会わせてやれなくてごめんな
そんな罪悪感を抱えながら病院の出口に向かう
「ジニョンさん?」
「あぁ、こんばんはマークさん」
声をかけてきたのは白衣に身を包み、珍しくメガネをかけたマークさん。
「最近ヨンジェ君の様子は……?」
その話をするや否や一気に曇っていく表情
「最初よりはまだ落ち着いていますが……まだ精神的に安定はしていないと思います」
「そうですか……」
「また落ち着き次第教えますね」
そして、困ったように少し笑うマークさん
「ありがとうございます」
まぁ当たり前だろう。狂ったジェボムから虐待を受けていたのだから。
ジェボムは間違っていたことをしていた。それは分かりきっていることだが、ジェボムもジェボムで今まで父親に狂わされ続けた人生を送って来たのだから、仕方ないのかもしれないと思ったりもする。
「ジニョンさん?」
「あ、はい」
もう診察室に戻っていたはずのマークさんが目の前に。いや、考えすぎて目の前にいたことを忘れてしまっていたのかもしれない
「考えすぎるのはダメですよ。ジニョンさんも仕事でいろいろ大変なことがあるでしょう?」
流石精神科医。見抜かれている
「考えすぎるとジニョンさんも病気にかかっちゃいますから、ちゃんと休息はとって。無理したらいけませんよ」
僕の返事は聞かずにマークさんは診察室へと姿を消した。いつの間にかあの優しい声がリピートされ、妙に頭から離れなくなっていた