3月12日の1号機水素爆発。
3月14日の3号機水素爆発、2号機の深刻化。そして、撤退問題。
3月16日から17日にかけての、燃料プールへの自衛隊機の放水失敗と成功。
すでに、東京電力福島第一原発は最悪の事態を迎えていましたが、私は「最悪の最悪」は何かを知る必要があると考えるようになっていました。4号機燃料プールが干上がるという「最悪の最悪」のシナリオの作成を依頼したのはそのためです。 原子炉の水素爆発という極めて考えにくい仮定に基づいたシナリオでしたが、あえてそれをつくることで、「最悪の最悪」を阻止することに、死力を尽くしました。
今でも数日に一度は、あの時のことを思い出します。それは、苦い檻のような記憶です。国家の存亡をかけた戦いを身を持って体験した政治家は数人。私は、その一人です。
対応を誤ると国家の存続を危うくする原発。わが国は、原発を完璧にコントロールすることはできるのか?そして、原発にどこまで依存するのか?
エネルギーは国の生命線です。電力は国民生活に直結しています。現実を見極める視点が必要です。
判断しなければならない時が迫っています。
(細野豪志@8/13)
毎日新聞8/21より引用
政府の「エネルギー・環境会議」は、総発電量に占める原子力発電の割合について「2030年代前半の原発ゼロ」を目標とする方向で検討に入った。来月にもまとめる新たな「エネルギー・環境戦略」に盛り込む。9月の民主党代表選や次期衆院選を前に、原発ゼロを求める世論や与党内の声を無視できなくなったほか、洋上風力発電など再生可能エネルギーの実用化に向けた技術革新を促す狙いもある。ただ、原発ゼロの実現には課題が多く、経済界などから反発も見込まれる。【笈田直樹、岡崎大輔】
上の新聞記事を下敷きにして、細野環境大臣の「今日のひとこと」を読めば、民主党政権でのエネルギー政策の今後が占える。耐用年数40年を厳格に守れば、2034年の時点で稼動可能な原子炉は、柏崎刈羽の6号機と7号機の2台だけだから、2030年代前半での原発ゼロ目標は、十分に達成可能な数字だろう。
そして政府はエネルギー政策の変更に先立ち、
討論型世論調査(DP)を行っている。
60代、70代、80代と年齢が上がるほど「原発ゼロ」の要求は倍々ゲームで大きくなるが、意外なことに、若年層とくに20代は「0%」よりも「15%」を選択する比率が多いことが判った。(※これは私の意見ではない。調査結果を述べているにすぎない)
「国家の存亡をかけた戦いを身を持って体験した」と細野は言う。 あんなに酷い事故を目の当たりにして、原発ゼロを主張しない若年層というのはバカなのだろうか?・・・たぶん違う。
この現象を理解できないオトナたちに読んで欲しい本がある。
福井晴敏さんの「小説・震災後」だ。
P236の11行目から引用する。
希望を失い、心の闇に囚われていく子供たちに、全校集会で、主人公の一人が語りかけるシーンだ。
「・・・さらに膨らんだ借金を君達に押し付けて、国ぐるみで破産ってことにもなりかねない。もう一度言います。それは未来じゃない。停滞の果てに訪れる黄昏、穏やかな自殺にも等しい。
いつか、君達の中の誰かが新しい仕組みを思いつくかもしれない。いや、思いついてくれると信じます。だけどそれまでは、いまの仕組みの中で生きていくしかない。だから我々大人はまず君達に謝らなければなりません。こんな世界を、今後十数年に及ぶだろう原発のリスクを君達に引き継がせねばならないことについて、誰かを責め立てて、自分だけいいほうに回ろうとしている場合じゃない。全員が当事者である事実を受け止め、少しでもマシな未来を引き寄せる努力をしなければならないんです。誰もが等しく罪を背負わされた、この震災後の世界においては」
この後、主人公は壇上から引き摺り下ろされそうになりますが、
「話させてやれよ!」「私も聞きたい」
子供たちはこの風変わりなオトナを支持します。
小説・震災後 (小学館文庫)/小学館