14 もう一度
末吉が脳溢血で倒れ、福井馬具店は四十五年で幕を閉じた。これを機会に、アサを正式に妻として入籍した。
平岸に二階建ての物置をそのまま移転させ、道具も持ってきた。
最後まで残った職人「千葉こ」を知り合いの馬具店に預け待機させた。
店をたたむとき、「もう一度、建てあげる。看板は降ろすな」と言ったそうだ。
晩年は、脳軟化症でボケが進み、徘徊するようになった。寒がりだったから、駱駝のシャツ、股引に綿入れ姿。下駄で家の廻りを一日中歩き、地面がカンカンに固くなった。
床について一週間。
昭和三十四年十月十四日。
拝み小屋から這い出た末吉が、畳の上で亡くなった。
長姉、次姉の縁の者と津川猛が顔を出した。
出棺のとき、猛が激しく声を上げて泣いたのを覚えている。