耳の話 その33 国立時代(19) | 小迫良成の【歌ブログ】

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「唱歌是生活的乐趣(歌は人生の喜び)」
「有歌声的生活(歌と共に歩む人生)」
 この言葉を心の銘と刻み込み
 歌の世界に生きてきた
 或る音楽家の心の記憶

さて、

東京藝大学部声楽科の実技試験において

合否を決定する評価箇所が

「音程」および「テンポ・リズム」

にあることは前述の通り。

 

持ち声の良し悪しや音量の多寡、

発声の良し悪しなどが

評価の対象でないことも既に述べた。

 

ただし、一部例外がある。

 

「音痴に聴こえるような発声」は、

その音痴らしさが故にNGである。

 

実際にあるのだ。

 

チリメンのような

細かくて耳障りな音の震えを生ずる声や、

逆にオクターブの幅もありそうな

面妖なうねりが生じている声をもって

曲を歌おうとすることが。

 

このどちらも、聴く側にとっては

「何を歌っているのか判らない」

「正しく音程が取れているのかすら判らない」

と判断されて終わりである。

 

まして、そんな声で

細かなパッセージのある曲、

例えば定番課題曲の「Le violette」など

歌われた日には・・・

 

 

・・・つまり、

藝大声楽科受験において

もっとも大事な合否ポイントは、

基本的な発声も含めて

 

「どれほど正しく音程を取っているか、

 どれほど適切にテンポやリズムを取り

 バランスよく歌っているか」

 

・・・ここにかかっている。

 

クラシック(特にオペラ)における

歌唱の極意のひとつに

「曲の部分では語りかけるように歌い、

 レチタの部分では歌うように語る」

というものがあり、

その意味においては

「丁寧に音程を取り音符を踏んでいる」

というのは「いかにも初心者っぽい」

とされていたりするのだが、

少なくとも学部受験レベルにおいては

その「初心者の丁寧さ」こそが求められる。

 

「オレ、この曲は歌い慣れているし

 いっちょカッコいいところ見せてやるぜ」

というのは、往々にして雑な歌唱を誘発し

加点のない藝大受験においては

徒に減点の危険を高めるだけと

心得ておいた方が良い。

 

※写真は音程確認の力強い味方ピッチパイプ